斎場に配置された供花(写真の一部を加工)
斎場に配置された供花(写真の一部を加工)

 「知人の葬儀に、自分で花を手配して送ろうとしたら、斎場から断られてしまいました」。西日本新聞「あなたの特命取材班」に、そんな投稿が寄せられた。調べてみると、外部の花店からの「持ち込み」を禁止し、直接注文だけに限っている斎場が全国的にあるようだ。「利益確保のため」(ある葬祭業者)との側面もうかがえる。(西日本新聞・水山真人)

 投稿者は、長崎市の50代女性。

 花好きだった知人が亡くなり、葬儀にフラワーアレンジメントで定評のある花店の花を寄せようとお店を訪れた。ところが、店員から「その斎場には届けられない」と言われ、斎場に電話して確認したところ、「供花は、斎場への注文分しか受け付けない」と言われたのだという。後日、知人の自宅に花を送り届けたという女性は「故人が大好きな花に囲まれて見送られることは、かなわないのでしょうか」と残念がった。

 この業者はメモリード(本部・長崎県)。担当者は取材に対し、理由を「生花スタンドの高さや花のボリューム、名札の体裁など供花に統一感を出すため、斎場注文に限っている」と回答した。



 女性の違和感は理解できる。この対応は、法に抵触したりはしないのだろうか、取材を重ねた。

 公正取引委員会の担当者は「不当な取引拒絶は、独占禁止法で規制されている。一方で、事業者側にも取引先選択の自由があり、供花の取引制限が違法とまで言えるかは難しい」と説明した。ただ、「遺族は、急に斎場を決めなければならないことがほとんど。今回のように、消費者にとっては好ましくないサービスが見過ごされている面もあるとみられる。斎場の対応を、事前に調べる方が望ましい」とも。消費者庁の担当者は「ただちに法令違反とは言えないが、消費者の選択を狭めており、問題がある」との回答だった。

供花の注文制限のイメージ

 国内の年間の死亡者数は、2000~20年までの20年間で約4割増加。このため、葬儀業界の市場規模も拡大傾向にあり、生花事業など他業種からの新規参入が活発になっている。

 公取委も注視しており、17年には斎場と、花店や仕出店といった出入り業者との取引に関する実態調査報告書をまとめた。それによると、優越的地位を利用して商品を購入させるなど、独禁法などに抵触する恐れがある行為が、取引関係の約3割で確認されたという。

 花店や葬祭業者にも尋ねた。

 鹿児島市の花店の経営者は「斎場注文の花は、種類が劣ったり、本数が少なかったりしても高額というケースが散見される。外部注文の花と並べると見劣りするので、持ち込みを制限しているのではないか」と推察する。

 持ち込みを認めていない葬祭業者には、会員になった人が費用を積み立て、慶弔のサービスを受ける「冠婚葬祭互助会」が比較的多い、との指摘も耳にした。

 互助会系の葬祭業者の関係者の一人は、取材に「現状は、葬儀の慌ただしさに紛れさせて、高額な花など不要な物やサービスを買わせるところもある」とした上で、「消費者の声に耳を傾け、個々のニーズに合わせたオーダーメード型の葬儀にしていく必要がある」と話した。

アンケートで同じ事例を募ってみると…アンケートに不満の声

 「仮に供花を使い回しされても分からない」「一般の花店に比べ、高額すぎる」。供花の注文を斎場に限定されることについて、西日本新聞「あなたの特命取材班」がウェブサイトでアンケートしたところ、不満の声が寄せられた。

 北海道の女性(53)は伯父の葬儀の際、外部で手配しようとした供花を斎場に受け付けてもらえなかった。自分で探した花は6千円だったが、斎場側から提示された供花の値段は2万~5万円台。「桁違いの値段で驚いた。統一感を出すためというが、故人が望むことなのだろうか」と女性。福岡市の会社員の女性(48)も「(斎場側が)売り上げを独占したいとしか思えない」と手厳しい。

 今回のアンケートでは、供花の注文を限定している葬儀業者の具体名も寄せられたため、各社に見解を聞いてみた。

 西日本典礼(本部・福岡市)と玉泉院(本社・熊本市)は、取材に対し「統一感を出すために制限している。ただ、ひつぎの近くに置く小さい花などは持ち込みを受け付けている」などと回答した。典礼会館(本社・山口県下関市)は「回答は控える」とした。

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