子どもが4月に入学した中学校の部活動の保護者会で、顧問の教諭や先輩の保護者から「遠方の試合では保護者の車に乗り合わせて子どもたちを送迎しましょう」と協力を求められました。これまで責任の所在があいまいなまま保護者の送迎に頼ってきたようで「もし事故が起きたら…」と不安が尽きません。子どもたちの望ましい遠征の姿を教えてほしいと思います。 =名古屋市の40代女性

 記者(34)は中学、高校ともに地区大会で1回戦を勝てるかどうかの野球部に所属していました。遠征では公共交通機関を乗り継いでいましたが、試合会場の駐車場で相手校の保護者らしき人の車から5、6人の選手が降りてくるのを見るたび、うらやましく感じていました。投稿の「当番制の送迎」について、「各部の判断で良いのでは」と考えていたところ、デスク(上司)から「待った」がかかりました。(中日新聞・成田嵩憲)

 デスクは「子どもを支えたい親の気持ちは分かるが」と前置きしつつ、「すべての責任を保護者が負いかねないとすれば問題では」と指摘した。そこで、過去に起きた送迎中の事故について、本紙の掲載記事を検索したところ、中部6県(愛知、岐阜、三重、長野、滋賀、福井)では確認できなかったものの、他県で複数の事例が見つかった。

 中でも、大きく取り上げられていたのが、石川県七尾市で2016年に発生した事故。同県珠洲市の中学生の野球部員ら約20人が乗る貸し切りバスが、対向車線からはみ出したワゴン車と正面衝突し、中学1年の部員2人が亡くなった。運転していたのは部員の父親だった。

 

 市教委によると、市内の公共交通機関はバスのみで、部員らは150キロ離れた金沢市での県大会に向かう途中だった。事故を受け、市は部活の送迎で教員や保護者の運転を禁止。バス会社に送迎を任せ、費用の一部を補助するよう改めた。

 調べを進めると珠洲市のように送迎のルールを定めている自治体は他にもあるようだ。そこで、中部6県の県と県庁所在地の教委に、児童・生徒の送迎のルールについて尋ねてみると、その対応や判断に違いがあることが明らかになった。

 名古屋市は明文化はしていないが、保護者による送迎を禁じる立場。「部活動は学校の活動。送迎を保護者に依頼することは適切ではない。公共交通機関を利用するのが望ましい」と回答した。ただ、現場の状況は十分に把握できておらず、今回の投稿にあるように学校によっては異なる運用もあるのが実態のようだ。

 岐阜市は「中学校部活動指針」で、公共交通機関の利用を原則とすると明記。タクシーや貸し切りバスを利用する場合は、顧問か保護者が同行することにし、保護者が当番制で送迎することは「認めていない」と回答した。

 これに対し、保護者の当番制の送迎を認めている自治体もあった。福井市では「各校、各部の活動で、保護者と協議の上、実施しているところはある」と説明した。大津市は教員による直接引率を原則とするものの、保護者同士の了解がある場合は例外的に送迎を認めている。

 6県と6市の回答をまとめると、ほとんどが保護者の当番制の送迎は望ましいとしておらず、公共交通機関を原則としている。ただ遠距離の場合は、部や保護者会などが貸し切りバスを手配することが望ましいとする自治体も複数あった。

生徒、保護者、顧問でオープンな議論を 日本部活動学会・神谷拓会長に聞く

 こうした現状を識者はどう見るか。日本部活動学会の神谷拓会長(関西大人間健康学部教授)は、自治体や学校は根拠があいまいなまま「暗黙のルール」を保護者に押しつけていると指摘する。部活動に関する国のガイドラインには言及がないことから、現場レベルでのルール作りが欠かせず、「生徒、保護者、顧問らのオープンな議論が望ましい。校長は全体を把握し、適切に指導することが求められる」とした。

神谷拓会長

 神谷会長は、一連の議論が部活の在り方を問い直すきっかけとなることも期待する。「本来、部活は学校の教育活動の一環で、会場までの行き方を含めて生徒自ら調べるべきだ。練習や試合だけを頑張れば良しとする昨今の風潮が、生徒の主体的な課題解決を育む機会を奪っている」とみる。

 神谷会長によれば、競技団体の要請で大会の大規模化が進み、これに伴って保護者の負担が増してきたという。「クラブ活動(部活動)の意義は、その言葉の意味が示すように『自治』『社交』にたどりつく。だからこそ、部活動の運営で生じる課題は生徒が主人公となって解決するべきだ」と、原点回帰を訴えた。

ーーーーーーーーーーーーー
 山陰中央新報が参加する地方新聞社の「オンデマンド調査報道」(ジャーナリズム・オン・デマンド=JOD)に加盟する友好紙の記事を紹介します。