いつ、どのワクチンを打ったらいいのか、戸惑っている人も多いだろう。個人の自由意思に委ねられるが、政府は自治体と連携して、それぞれの年代、接種回数に応じた分かりやすい丁寧な説明と、安全性や意義などエビデンス(根拠)を示しながら積極的な情報発信によって、混乱を回避しなくてはならない。

 新型コロナウイルスのオミクロン株に対応した新しいワクチンの接種が始まった。当面、4回目を受けていない60歳以上の人らが優先対象で、10月半ばをめどに、従来型を2回以上打った12歳以上の全ての人にも広げる方針だ。「1日100万回を超えるペース」(岸田文雄首相)に加速し、年末年始に感染が拡大した経験を踏まえ、希望者への年内の接種完了を目指す。

 今回のワクチンは、オミクロン株「BA・1」対応型。従来型を上回る重症化予防効果があり、短期間の可能性はあるものの、発症や感染を防ぐ効果も期待できる。政府は10月半ばまでに、計3300万回分を自治体に配送する計画を公表した。加えて現在の感染の主流となっている「BA・5」に対応する改良型の導入も見据える。自治体ごとや職場接種用の供給量を詳細に伝えることが欠かせない。

 ワクチンは時間が経過すると効果が薄らぎ、現時点では5カ月という一定の接種間隔も必要だ。「第7波」の感染拡大では、従来型の接種を進めてきたが、オミクロン対応型が秋にスタートするとの情報からキャンセルが続出した自治体もある。すぐ打てる従来型ではなく、オミクロン対応型を待ったり、改良型が導入されるかもしれないとして今回は控えたりする人も出てくるはずだ。

 新型ワクチンを巡っては、当初予定していた10月開始を前倒ししたが、政府が実務に当たる自治体に準備のために必要な情報を提供したとは言い難く、少なからぬ混乱を招いた。3回目から5カ月が経過した60歳以上に従来型の接種券を送った直後に、方針転換を受けて新型の案内を追加告知する自治体もあった。

 47都道府県庁所在地の市区(東京は新宿区)を対象にした共同通信調査では、ワクチン接種の課題として時期や接種効果などの「住民への周知」を挙げたのは12市で最多。「ニーズに合うワクチン供給」が10市、「接種控え」が10市区と続いた。

 政府の集計では、2回打ち終えた人は全人口の80%を超えたが、3回目は約65%にとどまる。第7波がピークアウトしつつあり、危機感が希薄となり、強い副反応を経験して敬遠する人もいるからだろう。

 厚生労働省は1、2回目を接種していない人はまず従来型を打ってもらい、3回目以降の人は「打てるものから打ってほしい」と呼びかける。

 既に4回打った人に対しては、改良型の接種間隔の短縮も検討しているという。改良型が承認されれば、1年半程度で5回目の接種となり、インフルエンザワクチンの季節も到来する。必要性と安全性など、個人の判断材料をきめ細かに提供するのは政府の責務だ。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、コロナ対応について政府のメッセージの出し方に改善の余地があると指摘した。政府は2年半余りにわたるコロナとの闘いの教訓を生かしてもらいたい。