ロシアのプーチン大統領は、軍事侵攻したウクライナでの苦戦を受け、予備役動員に踏み切るとともに、占領したウクライナ東南部4州で「住民投票」を実施してロシアに併合する構えを見せている。核使用もちらつかせている。国際社会は緊張をあおるロシアを抑止し、これ以上の犠牲を回避しなければならない。

 プーチン氏は動員は「部分的」だと主張、ショイグ国防相は招集されるのは軍役経験のある30万人程度に限られると述べた。しかし、軍事専門家らは、約200万人とされる予備役が次々と招集され、戦線に投入される「総動員態勢」に道が開かれたと指摘している。占領地域で合法性のない「住民投票」を強行してロシアに併合し、「新たな領土」に動員した兵力を展開させる計画とみられる。

 ショイグ氏は、2月の侵攻以来、ロシア軍の死者は6千人弱だと述べた。しかし、米欧情報機関には死者は8万人規模、負傷者はその2~3倍との見方もある。ウクライナ軍も同様か、それ以上の犠牲を出しているとみられ、今後の攻防で双方の死者が拡大する恐れが強い。

 ウクライナでの戦況は、米国による高性能兵器供与などの支援強化を受けてウクライナ軍が攻勢に転じ、9月上旬、ロシアに占領されていた東部ハリコフ州を完全奪還した。

 敗走するロシア軍の姿は通信アプリを通じて世界に拡散され、ロシア国内に衝撃が走った。軍参謀本部の幹部らは最高司令官であるプーチン大統領に対し、公然と不満を爆発させたと伝えられる。

 対抗策としての予備役動員の発表を受け、ロシア各地では陸路、空路で国外脱出を図ろうとする動きが強まり、大混乱となった。首都モスクワなど各地で若者らの抗議デモが起きたが、警官隊に制圧され、拘束者には直ちに招集令状が手渡されたという。

 ロシアの中間層は個人の生活向上を享受する一方で、実質20年以上にわたるプーチン政権が民主体制を破壊し、強権体質を深める現実に背を向け、容認してきた経緯がある。多くの男性が招集される予備役動員が実施されたことで、政治的無関心のつけが回ってきたと言わざるを得ない。

 攻勢に転じたウクライナのゼレンスキー大統領は「侵略者のロシア軍をわが国から追い出すまで戦う」と宣言、東南部の奪還に向けウクライナ軍は、ロシア本土にある後方支援基地への攻撃を始めた。

 これに対し、ロシア軍はウクライナの発電所、ダムなど生活基盤インフラを攻撃しており、停戦、和平の見通しはほぼ皆無だと言えよう。

 プーチン氏がウクライナ侵攻に踏み切った背景には、同氏が歴史的にロシアの一部とみなすウクライナが米国が率いる北大西洋条約機構(NATO)に取り込まれ、「反ロシアの橋頭堡(ほ)」になったとの独特な世界観がある。プーチン氏は侵攻前、米国とNATOに対し欧州の安全保障体制を見直す包括的合意を結ぶよう要求していた。

 現在、米国はウクライナの反転攻勢を全面支援し、ロシアを追い詰めている。今後は欧州や日本など同盟国と協力して、核大国ロシアを抑止しつつ窮地には追い込まず、ウクライナ和平と欧州安保の交渉の席につかせる難題に取り組むことが求められる。