バスケットボール男子Bリーグ1部(B1)の新シーズンがいよいよ10月1日、開幕する。島根スサノオマジックの優勝をかけたシーズンがスタートする。バスケットボール経験者の視点で、観戦に役立つ島根スサノオマジックの見どころを解説する<下>では、注目のオフェンスと総合戦力について伝えたい。
強さの秘密は? 新陣容でどう戦う!? 島根スサノオマジック 新シーズン展望<上>
ディフェンスはなぜ強い、磨きかかるバズソー 島根スサノオマジック 新シーズン展望<中>

「優勝しないとリーグの歴史に名を刻めない」と、島根スサノオマジックの安藤誓哉主将は新シーズンのスタートにあたり、自らに言い聞かせるように宣言した。何と重く、また、頼もしい言葉だと受け止めた。昨シーズンはチャンピオンシップ(CS)初出場を果たし、強豪の東京を下し、ベスト4入り。準決勝では惜しくも琉球に敗れた。達成感と悔しさと両方を味わったはず。安藤主将には琉球との激闘で手応えがあったのではないだろうか。新シーズンにかける並々ならぬ覚悟が伝わってきた。
主力が残留、チームの仕上がりは早い
戦力面では昨シーズンの主力メンバーが残留し、既にチームの土台はしっかりできている。ポール・ヘナレ監督が「バズソーを熟成させる」と言っているように、強いディフェンスから速い攻撃に転じる島根のスタイルは他チームにとっては脅威になるだろう。
CSを戦ったことで、島根のディフェンスはほぼ完成しているとみる。強いチームと大舞台で戦うことでレベルアップできた。ディフェンスの集中力が高まり、5人全員が厳しく守る意識で統一されると、5人の力が10人くらいの力になるのが、バスケットのマンツーマンディフェンスの面白さであり、魅力だ。島根はその力を身につけ、発揮し始めた。プレシーズンゲームでは新加入の選手をチームに慣らすため、プレー時間を増やしながらB2の香川、西宮を圧倒した。B1のチームと1試合はやりたかったところだが、大きな影響はないだろう。

戦力を補強した島根に死角はないとみている。他チームが選手や監督の入れ替えなどでチーム力が上がらない中、チームの総合力が高い島根はスタートダッシュを決めて、優勝に向けて駆け上がっていくのではないか。
「守り合い」をどう突破するか
新シーズンの最大の注目点はオフェンスとみている。もちろん、粘り強いディフェンスから速い攻撃を仕掛けるバズソーの進化、熟成は楽しみだ。スピーディな攻撃ができれば、一番いい。しかし、琉球や川崎、千葉、宇都宮のような強いチームと対戦すると、なかなか相手もオフェンスでミスをしたり、簡単にリバウンドを取らせてくれたりしない。つまり、速い攻撃を仕掛けられなくなってくる。これはプレーオフでの東京との第3戦や琉球と対戦した時に見られた。バスケットボールでは力の拮抗したチーム同士の対戦では「守り合い」になることが多い。
あとワンプレー、ここで1ゴールを決めるかどうかが、勝負の分かれ目になる。バスケットボールではこういうシーンが必ずある。そこではお互いが、必死に守り、ハーフコートで5対5の攻撃になる。昨シーズンのCS決勝では宇都宮のエース・比江島慎選手が琉球の必死のディフェンスをこじ開けて、優勝に導いた。
今シーズンの島根はプレーオフに進出した力のあるチームとの対戦で、しっかり勝つことが優勝に向けて大事なポイントになる。そこで鍵を握るのはハーフコートで5対5になった時のオフェンスだ。
攻撃時にボールの位置を変える
5対5のオフェンスになった時、島根はガードの安藤主将かフォワードのペリン・ビュフォード選手がドリブルでボールをキープし、プレーが始まる。2人とも攻撃力のある選手で、特にビュフォード選手はスピードのあるドリブルイン、ジャンプシュート、3ポイントと日本でプレーする選手の中ではトップクラス。しかし、相手チームも研究してくる。プレーが始まるポイントが同じだと、ディフェンスは守りやすい。この壁をどうするかは今シーズンの注目点だ。

5対5の攻撃で島根は、ボールを保持している選手に背の高い選手が壁を作るように立つピック&ロールというプレーが目立ってくる。島根は安藤主将がボールを保持すると、このプレーを多用し、チャンスを作ってきた。このプレーはチャンスを多く作ることができる攻撃だが、相手に読まれてくる。ピック&ロールをするオフェンスに対して、他のディフェンスが厚く守り、攻撃するスペースが狭くなり、ディフェンスから速攻に転じる準備を早く整えることもできる。
バスケットボールではボールのある場所とゴールを結んだラインをオフェンス、ディフェンスとも最も重視し、攻防を繰り広げる。ボールが同じ場所にあると、ディフェンスの方は、ゴールを結んだラインを意識して守ることができる。ボールを持つオフェンスは自分のディフェンスを振り切っても、ほかのディフェンスがすぐに守りにくるために、攻めにくくなる。
ではどうするか。ボールの位置が変わると、ディフェンスはボールとゴールを結ぶラインが変わるので、守りにくくなる。
サッカーやハンドボール、ホッケーなど敵味方が入り乱れて、ゴールを狙う競技では同じことが言える。ボールを動かして(サイドチェンジなどと呼ばれる)、ディフェンスのずれや、すきを突くという攻撃だ。
多彩なオフェンスは脅威に
島根は基本のピック&ロールをしながら、そこにボールの位置が変わるプレーを織り交ぜたい。
ピック&ロールは、ボールを保持した状態でスクリーンプレーが発生するので、オンボールスクリーンと言われる。これに対して、ボールがない場所で2人、時に3人でスクリーンをかけて攻撃するオフェンスがあり、これをオフボールスクーンと呼んでいる。
島根は強力なオンボールスクリーンに加えて、ボールがない場所で、オフェンスの選手同士がスクリーンをかけて、ディフェンスのずれを作りだし、攻撃チャンスを作るプレーが必要だ。ファイナルでは、この動きが見られた。練習はされているはずだ。

新シーズンで、島根がオンボールスクリーンとオフボールスクリーンを使い分け、タイミングによっては各選手が動きを作ってボールを速く回すことをすれば、相手チームにとっては、ディフェンスのポイントを絞ることができなくなり、驚異になるだろう。もともと島根は一人一人の攻撃力がある。ディフェンスとの関係で、小さなずれさえ作れれば攻撃はいくらでもできる。
このことは選手も監督も十分に理解しているはずだ。監督は攻撃パターンの多さで知られるので、今シーズンはここに注目したい。「バズソー+多彩なオフェンス」。これが出来上がってくるなら、島根の優勝はぐっと近づいてくる。島根に残留した外国人選手を含めた主力は、チームの戦術や課題について理解しているはず。その上で優勝を目指すチームとして島根を選んだはずだ。そういう意味でもまずは、前半戦の戦いに注目したい。
いい補強でチーム力アップ
最後に新加入の選手について。昨シーズンは選手層の薄さにヒヤヒヤした。安藤主将のプレー時間が長く、外国人選手にもけがの心配があった。新シーズンは白濱僚祐選手の成長で、阿部諒選手と新加入の津山尚大選手で、外のプレーヤーの層が厚くなった。

また、ウィリアムス・ニカ選手が下がった時、外国人選手2人と日本人選手3人で戦わなくてはならない。各チームには日本国籍を取得した外国人選手や日本人選手で身長の高い選手がいる。昨シーズンまで島根は日本人選手が3人になった時、相手に攻め込まれたり、オフェンスで崩せないケースが多かった。この点、谷口大智選手の加入は大きい。日本代表に招集されたニカ選手のプレー時間を短くでき、オフェンス、ディフェンス両面で補強された。津山、谷口両選手の加入は戦術の幅を広げることにもつながる。弱かった部分をしっかり補強できたと思う。

最大の課題はコンディショニング
一つだけ心配なことがあるとすればB1のシーズンが長いこと。レギュラーシーズンは10月に始まり、来年5月まで60試合にもなる。最大の課題はコンディショニングだ。相手チームによって、選手を入れ替え、効率よく勝ちを積み重ねたい。
一番恐いのは相手チームではなく、「けが」だと思う。集中力を維持して、戦い続ければ優勝は見えてくる。新シーズンは昨シーズンとはいい意味で大きな違いがある。レギュラーシーズンを戦いながら、チームのさらなる成長が見えるはず。そう思うとワクワクする。開幕から1試合ずつ、楽しみに見届けたい。そうそう、チャンピオンシップ決勝を見る旅費を今から準備しておかなくては。
(編集局ニュースセンター 舟越 幹洋)