全国の児童相談所による虐待対応は2021年度、速報値で20万7659件に上った。前年度比で2615件の増加と伸びは幾分鈍化したとはいえ、1990年度の統計開始から31年連続で最多を更新。子どもの目の前で家族に暴力を振るう面前DV(ドメスティックバイオレンス)や暴言などの心理的虐待が初めて全体の6割を超えた。

 また厚生労働省の専門委員会が2007年1月~20年3月に発生した心中以外の虐待死698人の事例を検証し、6割以上の461人について児相と市区町村の担当部署のどちらも関与していなかったことが分かった。どちらかが関与した場合も2~3割で虐待リスクの評価をしていなかった。

 リスク評価は、虐待情報を得た児相や市区町村が子どもや親、学校などから聞き取りを行い、子どもの身体的、精神的状態や家庭の経済状況など数十項目をチェック。虐待の深刻度を見定め、その情報を関係機関と共有する。子どもを親から引き離す一時保護など、さまざまな対応を取るかどうかを判断する際の重要な基礎データとなる。

 それが不十分だと、救える命も救えなくなる恐れがある。警察などによる虐待通告から原則48時間以内に子どもの安全を確認することを児相に求める国の「48時間ルール」も含めて基本の徹底を図り、虐待対応の立て直しを急ぐ必要がある。

 虐待死を検証した専門委によると、全体の698人中、児相関与の156人のうち33人、市区町村関与の164人のうち58人のリスク評価をしていなかった。また、それぞれで66人、47人について「リスクはそれほど高くない」とみていた。

 大阪府摂津市で昨年8月、3歳男児が母親の交際相手に熱湯をかけられ死亡したとされる事件で、府の有識者検証部会は今年1月に報告書をまとめた。それによると、母子が転入してきた直後の18年11月、市は虐待リスクを「ネグレクト(育児放棄)・最重度」と判定した。ただ翌年3月、生活状況などを踏まえ「中度」に変更していた。

 問題はその後だ。保育所で頭にけがが見つかるなど安全が危ぶまれる情報が繰り返し寄せられたのに、リスクは中度に据え置いたままだった。

 市は定例会議で把握した虐待情報を児相に報告していたが、会議では数百件の事例が扱われるため、情報共有が形骸化していた恐れがあると検証部会は指摘している。

 神奈川県厚木市では8月、車内に2歳長女と1歳長男を放置し熱中症で死亡させたとして、保護責任者遺棄致死の罪で母親が起訴された。母親は7月上旬にも長男を車内に置き去りにし、警察は中旬、ネグレクトの疑いで児相に通告した。だが児相は人員不足で、48時間ルールによる安全確認に手が回らなかった。

 リスク評価など基本がおろそかになり、悲劇につながった事例はほかにもある。政府は来年4月創設のこども家庭庁と関係省庁が連携し取り組む総合対策で、児相の負担減に向け24年度に人工知能(AI)で虐待リスクを判定する仕組みの導入を目指すとしている。

 児童福祉司や児童心理司の大幅増員も進めているが、その結果、児童福祉司の約半数が勤務経験3年未満となり、専門性の向上が急務となっている。児相OBや民間支援団体なども含め人材活用を柔軟に検討したい。