1972年9月29日、日本と中国が国交を正常化してまる50年を迎えた。半世紀前の日本は高度成長期にあって経済的な繁栄を享受していた。一方、中国は極左的な政治運動、文化大革命で混乱する貧しい社会主義大国だった。
2010年、中国の国内総生産(GDP)は日本を抜いて米国に次ぐ世界第2の経済大国になった。新型コロナウイルスや不動産不況というマイナス要因もあるが、いずれ米国を抜いて世界一の経済大国になるとの見通しは変わらない。
米国は台頭する中国を「戦略的競争相手」と位置付け、米中の覇権争いは熾烈(しれつ)だ。日米同盟を外交・安全保障の基軸とする日本は、中国の強引な海洋進出や台湾有事への懸念を強め、米国と協調して大幅な防衛力増強を進めようとしている。
日中関係は冷え込み、祝賀ムードは盛り上がらない。だが、国交正常化の共同声明で両国は「平和共存」「友好」「反覇権」を誓い合った。この原点に立ち返り、時代の変化に即した関係再構築のため積極的な対話を進めるべきだ。
8~9月の日本世論調査会の調査によると「中国に親しみを感じない」は86%で20年前の43%から倍増した。理由は沖縄県・尖閣諸島周辺などの圧力強化が44%と最も多く、民主化が不十分・少数民族への人権侵害が29%と続いた。
中国の海洋進出や香港、新疆ウイグル自治区での人権弾圧などから日本国内の対中世論は悪化した。ロシアのウクライナ侵攻後は中国の対ロ協調への不満も重なる。
世論調査では、岸田文雄首相と中国の習近平国家主席の会談について80%が「必要」と回答し、関係改善のためには両首脳が「会談し信頼関係をつくること」が最も重要との回答は48%で最多だった。国民の期待に沿って、両首脳は早期に会談して関係改善の道筋を探るべきだ。
習氏はコロナに感染した岸田氏を見舞う電報で「新時代の中日関係の構築を一緒に推進したい」と呼びかけた。岸田氏は記者会見で、習氏との会談について「中国との対話は常にオープンだ。日中でしっかり考え、調整したい」と述べた。
8月、国家安全保障局の秋葉剛男局長が訪中して外交担当トップの楊潔〓(竹カンムリに后の一口が虎)共産党政治局員と会談した。オンライン首脳会談の9月中の開催を打診したもようだ。実現が遅れているのは、安倍晋三元首相国葬への台湾の参列者を巡る日中の確執のためとの見方もある。
台湾は元国会議長、元首相クラスを送ったが、中国は副首相級にとどめ、台湾が「指名献花」の対象になったことにも反発した。台湾を自国の一部と主張する中国は、日米欧の台湾接近を「内政干渉」とけん制する。特にペロシ米下院議長が8月に訪台して以降は警戒レベルを上げた。
だが、こうした対立があるからこそ、対話を通じて意思疎通を図る必要がある。国交正常化に当たり、当時の周恩来首相は「求大同、存小異」(小異を残して、大同を求める)と述べた。求めるべきは共生のための「恒久的な平和友好関係」(共同声明)であろう。
岸田氏は東京都内で29日に開かれる国交正常化50年記念式典に出席して「建設的、安定的な関係構築」を呼びかけるとみられる。中国側の前向きな対応を期待したい。