政治不信を払拭するためにも、社会の分断を修復するためにも、言論の府の再生が欠かせない。国権の最高機関が機能喪失に陥っていることを与野党の議員は自覚しなければならない。

 臨時国会がきょう召集される。7月の参院選後、国内外の難題に直面し、自ら掲げてきた「聞く力」「丁寧な説明」が求められる場面だったが、岸田文雄首相と与党は、野党の召集要求を拒み、本格的な論戦を回避してきた。ようやく開く国会では、実りある審議を実現すべく、誠意を持って対応する必要がある。

 就任1年を迎える岸田首相を取り巻く状況は一変した。霊感商法や高額献金などが社会問題化していた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党議員の接点が次々と発覚し、政治に対する不信感は増幅。反対論が多数を占めながら安倍晋三元首相の国葬を国会に事前に諮らず、独断で強行して国民の分断をもたらした。その結果が内閣支持率の急落だ。

 新型コロナウイルスの感染は一時より落ち着きを見せつつあるとはいえ、社会経済活動の優先がより鮮明になり、「第8波」の備えが十分なのか不安は残る。急激な円安などに伴う資源・物価高騰対策は、対症療法にとどまり、私たちの暮らしを圧迫する。こうした課題に、岸田政権から明確なメッセージが届いているとは言い難い。

 第一に迫られるのは、旧統一教会問題への対応だ。自民党の「点検」は調査にはほど遠く、公表後も〝新事実〟が相次ぎ表面化している。まず実態をつまびらかにする。その上で教団の活動への対策や、具体的な政策決定に影響を与えることはなかったのか、教団の名称変更に政治の力が働いたのか、といった核心部分の疑問を解明しなければならない。

 会派離脱を隠れみのに口をつぐんでいた細田博之衆院議長は旧統一教会との接点を認めたが、たった1枚の文書だけ。セクハラ疑惑も含め率先して説明責任を果たすのが三権の長の責務である。教団と深いかかわりがあったとされる安倍元首相に対しても「限界がある」と最初から腰を引くのではなく、できる限りの調査が不可欠だ。教団の接触は野党や地方政界にも広がっており、国会に機関を設置することも検討すべきだろう。

 コロナ対応では、経済活動にはやる姿勢が際立ち、自治体や専門家、国民とのコミュニケーションが不十分で、感染者の全数把握の簡略化や新たなワクチン接種を巡って混乱が生じた。物価対策も、欧米との金利差による円安が重くのしかかり、手詰まり感も漂う。

 国論が二分されただけに、安倍元首相の国葬の詳細な検証も課題だ。岸田首相が表明した原発回帰への転換も、過酷な事故を経験した国民との「対話」を踏まえた判断とはとても言えまい。抜本的な防衛力強化に向けた防衛費の大幅増額方針も、財源を含む徹底的な論議が必須となる。

 ロシアのウクライナ侵攻は長期化。韓国、中国との関係も、改善の糸口がつかめない状況が続く。岸田外交の現状と展望も論じてもらいたい。

 言論の府の本分は、熟議と幅広い合意を見いだす努力、そして行政監視である。国会の活性化は、岸田首相はじめ政権の逃げない真摯(しんし)な態度が大前提だ。それを促す与党の責任も重い。