臨時国会の開会式前、衆院本会議に臨む岸田首相=3日午前
臨時国会の開会式前、衆院本会議に臨む岸田首相=3日午前

 国内外の難題に取り組むには、時には国民に厳しい負担を強いることもある。そのために政治には国民の理解と支持が不可欠だ。だが、岸田文雄首相の演説からは、内閣支持率の急落に表れている政治への不信を払拭しようという決意は伝わってこなかった。

 臨時国会冒頭の所信表明演説で、岸田首相は経済政策に大半を割き、「日本経済の再生が最優先の課題だ」と強調した。しかし、この国会でまず取り組まなければならないのは失った信頼の回復ではないか。支持率急落の原因は、安倍晋三元首相の銃撃事件で明るみに出た自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関係や、強い反対論がある中で安倍氏の「国葬」を強行したことだろう。

 だが、肝心の問題で首相は「厳しい意見を聞く」姿勢を強調したものの、具体的な踏み込みはなく、短く触れただけだった。旧統一教会問題では「信頼回復のために、各般の取り組みを進める」と述べ、悪質商法などの被害救済に「法令の見直しを検討する」と述べただけ。国葬に関しては「国民の意見を重く受け止め、今後に生かす」としか言及しなかった。

 旧統一教会問題で野党は国会に調査委員会の設置などを提案している。しかし、首相は政治家と教団の関係を徹底調査したり、国葬の事後検証を国会で行ったりする考えは全く示さなかった。演説では「『信頼と共感』姿勢」を強調したが、これで国民の不信を拭えると考えているのか。危機感が欠落していると言わざるを得ない。

 岸田政権が発足して4日で1年になる。首相が自民党総裁選に出馬した際の言葉は「国民の間には政治が信頼できないという声が満ちあふれている。民主主義が危機にひんしている」だった。今、岸田政権も同じ状況に陥っているのではないか。初心に立ち返るべきだ。

 首相がアピールした経済対策では「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」を重点分野に挙げた。確かに生活を圧迫する物価高などへの対策は必要だ。ただ、列挙した施策は社会人の学び直しやスタートアップ(新興企業)育成、脱炭素などで新味は乏しい。

 首相は9月30日に総合経済対策の策定を指示したばかり。2022年度第2次補正予算案の会期中の提出も明言したが、具体化はこれからだ。

 例えば電力料金の負担軽減のため「前例のない思い切った対策を講じる」と表明したが、制度設計は今後検討する。官民連携による賃上げもどう実現するのか。自民党内には30兆円規模の経済対策を求める声があるが、額ではなく必要で効果的な対策を策定すべきだ。

 年末に改定する「国家安全保障戦略」で焦点となる「反撃能力」の保有に関しても「あらゆる選択肢を排除せず検討を加速する」としか述べなかった。防衛力の抜本的強化を言明しながら財源にも触れなかった。国会審議では自らの見解は示さず、閉会後に文書改定を決定するならば国会軽視と言うしかない。

 首相は新型コロナウイルスや物価高、ロシアのウクライナ侵攻などを挙げて「国難とも言える状況」だと強調した。ならば今取り組むべきなのは危機に耐えられる社会・経済の構造的な基盤強化ではないか。国会論戦で深掘りするよう求めたい。