北朝鮮のミサイル発射に関する情報を伝えるテレビ画面=4日午前7時44分、東京・東新橋
北朝鮮のミサイル発射に関する情報を伝えるテレビ画面=4日午前7時44分、東京・東新橋

 北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、青森県付近の上空を通過して太平洋上に落下した。日本上空を通過するのは2017年9月以来となる。北朝鮮は今年に入って異例のペースで発射を繰り返しており、ミサイル技術を確実に進化させてきた。7回目の核実験を行う動きもあり、こうした脅威の常態化を国際社会は許してはならない。

 ミサイルは最高高度が約970キロで、約20分間で約4600キロ飛行した。17年に列島を越えた中距離弾道ミサイル「火星12」と同型の可能性があるが、飛行距離は、これまで発射された弾道ミサイルの中で最も長い。北朝鮮がミサイル技術の向上を誇示し、日本や米国、韓国への威嚇を強めるのは間違いない。

 米韓は9月26~29日、約5年ぶりに日本海で合同軍事演習を行い、30日には日米韓が対潜水艦作戦の共同訓練を実施した。北朝鮮は25日から今月1日にかけて、1週間で4回という過去に例のないペースで短距離弾道ミサイルを発射し、演習に反発する意思を明確に示している。今回のミサイル発射も、その延長線上にある行動と考えるべきだろう。

 また、3月24日には大陸間弾道ミサイル(ICBM)を高角度のロフテッド軌道で発射しているが、今回は日本上空を通過しており、通常軌道で発射したとみられる。

 現実的な条件の下で発射したことは、北朝鮮がミサイルの性能をより詳しく検証し、実戦配備に向けた動きを加速させていることを示している。今後、ICBMを通常軌道で発射する可能性もあるだろう。

 日米韓の深刻な懸念をあざ笑うかのように、国連安全保障理事会の決議違反を北朝鮮が繰り返す背景には、ロシアによるウクライナ侵攻などを巡り、安保理が機能不全に陥っている点がある。

 「米国」と「中国、ロシア」の対立が固定化する中で、北朝鮮がミサイルを発射しても、中ロは安保理の対北朝鮮制裁決議に拒否権を行使する。北朝鮮がやすやすとミサイル開発を行える環境になっているのが現実だ。

 北朝鮮の核開発について中国は反対の立場をとっており、核実験に踏み切るハードルは高い。一方、北朝鮮はロシアによるウクライナの東部・南部4州の併合を支持するなど、ロシア支持の姿勢を強調している。核実験を行っても、ロシアの拒否権発動で国連の制裁を逃れられるという計算ものぞく。

 こうした中、日本は米韓と連携して北朝鮮への圧力を強化するが、同時に対話を模索することも重要だ。

 02年9月に当時の小泉純一郎首相と北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記が初の首脳会談を行い、「日朝平(ピョン)壌(ヤン)宣言」を発表してから20年が経過した。宣言によって日朝関係が大きく動くと期待されたが、その後の進展はない。

 岸田文雄首相は今年9月21日の国連演説で、日朝関係について「拉致、核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を目指す」と明言している。「条件を付けずに金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記と向き合う決意だ」とも述べているが、実現に向けた動きは全く伝わってこない。

 北朝鮮の軍事的挑発のペースを抑え、地域を安定させるためにも、岸田首相には「外交力」の発揮が求められている。