開発中の次世代義足を装着する「BionicM」の孫小軍氏=東京都文京区
開発中の次世代義足を装着する「BionicM」の孫小軍氏=東京都文京区

 「これさえあれば、健常者と同じように歩けます」。東大の南研究棟内に設けられた坂道をさっそうと駆け降りる男性。右足にはメタルボディーのロボット義足がまぶしく光る。義足はバッテリーを内蔵し、センサーで動きを検知。モーターの力で、まるで体の一部のように歩いたり、立ち上がったりする動作を自然に行っていた。

 男性の名前は孫小軍氏(33)。東大発のベンチャー企業「BionicM」(バイオニックエム、東京)の創業者で、次世代義足の開発者だ。中国で生まれた孫氏は9歳の時に骨肉腫で右足を切断。中国の大学を卒業後に来日し、ソニーや東大大学院を経て2018年に起業した。

 現在主流の義足はバネの反発力を活用した構造で、基本的に装着者が自分の力で動かす必要がある。義足ユーザーの孫氏は「疲れやすく転びやすい課題が長年解決されずにいた」と語る。

 同社はAIで使う人の癖を分析し、義足の動きを微調整する技術の研究も進めている。「テクノロジーの力を駆使し、障害のハンディをなくしたい」。年内をめどに製品化する方針だ。

 人間の体と機械が一体となり、障害のハンディを補うロボットが相次ぎ誕生している。慶応大大学院の研究チームは動物が尻尾で体のバランスを制御する点に着目。特殊なゴムチューブを使った尻尾型ロボ「アーク」を試験的に開発した。

 アークは空気圧で約1メートルの尻尾を自在に動かせるほか、センサーで体の重心の変化を分析できる性能を持つ。体を右側に傾ければ尻尾は左に揺れ、左側に傾ければ尻尾は自動的に右に揺れる。高齢者の歩行をサポートできるため、南沢孝太教授(38)は「近い将来、福祉施設で実証試験を始めたい」と意気込む。

 一方、早稲田大の研究室が開発を進めるのは、肩に装着したロボットアームを眼鏡型の機器で操作する「第三の腕」。まだ実験段階だが活用イメージはこうだ。フライパンで料理中に調味料の棚に視線をやると、センサーが顔の向きから容器を特定。距離を測定し「取って」と声を掛けるとアームが動き、目当ての調味料を取ってくれる。

 岩田浩康教授(46)は、目指す先は肉体的な限界を乗り越える「身体拡張」とした上で「ロボットとの融合で人間の生産性が高まり、日々の暮らしは格段に便利になる」と指摘した。