アルバム「鬱」のジャケット
アルバム「鬱」のジャケット

 プログレッシブロックバンド、ピンクフロイドのアルバムでは1987年の「鬱(うつ)」が一番好きだ。リーダーのロジャー・ウォーターズが脱退し、デビッド・ギルモアを中心とする新生フロイドの第1弾。一般的には「フロイドらしさがなくなった」と言われ、「狂気」「ザ・ウォール」などウォーターズ時代のアルバムと比べて評価が低い。

 確かに趣は少し違う。不気味さ、幻想的な雰囲気は残しつつ、親しみやすいメロディーが前面に出て、聴きやすいと思う。「鬱」というタイトルに反して明るい曲、力強い曲が目立つ。

 収録曲「理性喪失」は宇宙を感じさせ、フロイドの曲で一番好きだ。アンダーソン・ブラフォード・ウェイクマン・ハウの「ブラザー・オブ・マイン」が大空の広がりを、エニグマの「リターン・トゥ・イノセンス」が大地の広がりを感じさせるとすれば「理性喪失」は深遠な宇宙。夜、部屋を暗くして聴く。

 ピッピッという電子音や時計のアラーム音で始まりパーカッションとキーボード(?)が浮遊、上昇するメロディーを奏でる。コーラスも美しい。同様に時計音で始まるウォーターズ時代の73年の曲「タイム」をよりエレクトリックにしたような感じの曲でもある。

 他の収録曲もいい。「末梢(まっしょう)神経の凍結」は、きしむような音のイントロこそ不気味だが、サックスとコーラスが入って徐々に明るくなり、夜明けを思わせる。「生命の動向」はボートをこぐ音の不気味なイントロに続き、厳かなメロディーになる。「幻の翼」は重厚で力強い曲だ。

「吹けよ風、呼べよ嵐」が収録されたアルバム「おせっかい」のジャケット

 ウォーターズ時代も「タイム」「コンフォタブリー・ナム」など好きな曲はある。例えば「吹けよ風、呼べよ嵐」はボンボボンボ、ボンボボンボというベースのイントロが不気味。往年の人気悪役プロレスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーの入場曲にも使われた。

 それでも「鬱」の方が好きな曲が多く、アルバム全体でも気に入っている。

 記者は初めて聴いたフロイドが当時の最新アルバム「鬱」。フロイドを勧めてくれた友人は「狂気」「ザ・ウォール」を推していた。ユーチューブで気軽に聴ける今と違い、CDを買うか借りるかするしかなかったから最初のアルバム選びは重要だった。もし最初に「鬱」を手に取っていなければフロイドを好きにならなかったかもしれない。 (志)

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