電気のスイッチを切る男性のイラスト
電気のスイッチを切る男性のイラスト

 秋がだんだんと深まり気温が下がり始めると、朝や夜はそろそろ暖房を使いたくなる。今シーズンは原油価格の高騰が続き、灯油や電気料金の値上がりで家計への影響が心配だ。冬を迎える前に、自宅で手軽にできる節電の方法や心構えを紹介する。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 節電と聞くと、電気料金の出費は減るが、我慢を強いられ、体に負担がかからないか心配する人も多いと思う。だが、効率的に部屋を暖めることで、体にプラスの影響をもたらすことが多いようだ。節電方法に詳しい公益財団法人・しまね自然と環境財団の、環境事業課長の葭矢(よしや)崇司さん(51)と、企画員の伊藤玲子さん(58)に話を聞いた。

冬の節電方法について教えてくれた、しまね自然と環境財団の葭矢崇司さん(左)と伊藤玲子さん

 

 ▼一番手軽なのは厚着、でも…

 葭矢さんは「効率をいったん度外視した上で、冬にできる一番手軽な節電方法といえば、服を着込むこと」と切り出した。

 体の熱が逃げないように厚着をすれば、暖房を使う頻度や、設定温度を抑えられる。近年、厚着で暖房利用を抑える手法をクールビズの反対の「ウォームビズ」と呼び、企業で取り組むところも多い。

寒さをしのぐ最も簡単な手段は厚着。ただ、外出時はまだしも、室内で厚着をするのは何かと不便だ(資料)

 葭矢さんによると、人体を効率的に温めるために重要な箇所は、太い血管のある首、手首、足首の「三つの首」。自宅でもマフラー、手袋、レッグウォーマーを使い、服を1枚余分に羽織るといった工夫をすることで、体感の寒さを軽減できるという。

 ただ、葭矢さんは「厚着は手軽だが、どちらかといえば我慢の省エネ」と指摘した。確かに、厚着は暖かいが、同時に圧迫感や動きにくさを感じ、自宅なのにリラックスできなさそう。より効率的かつ効果的な方法はないのだろうか。

 

 ▼家の中で熱が一番流出する箇所は?

 葭矢さんは「熱が家のどこから逃げているかが分かれば、そこを対策することで熱を屋内にとどめることができる」と強調した。葭矢さんによると、家の壁や屋根など各部位から熱が流出する割合は、窓からが58%で最高だという。冬場、家の中で一番冷たい所といえば、確かに窓だ。

屋内での暖房使用時、外に熱が逃げる割合。住宅から出ていく熱の多くは、窓など開口部から逃げていく

出典:COOL CHOICE ウェブサイト(https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/aboutsite.html)

 葭矢さんのお薦めは断熱カーテンや断熱障子といった、窓と部屋の間に空気の層を作れるものを設置すること。いずれもホームセンターで購入でき、設置するだけで体感温度が全く違うという。窓の下半分についたてを立てるだけでも、冷たい空気の流入を軽減できる。

 本格的に対策する場合は既存の窓に内窓を新たに取り付け、二重窓としたり、サッシを樹脂製にしたりする方法もある。業者に依頼すればできるほか、近年はホームセンターで資材を買えば、素人でも取り付けられるという。リフォームを予定する人がいれば、家の資材に断熱素材を使うこともお薦め。屋内の熱を逃がさないことで、快適なまま暖房の使用電力を減らすことができる。

空気層を設けた複層ガラスや二重窓にすることで、屋内の熱を保つことができる

出典:COOL CHOICE ウェブサイト(https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/kaiteki/topics/20211222.html)

 加えて、伊藤さんが暖房を効率的に使う方法について「暖房からの暖かい空気は上にたまるので、うまく循環させることが大事」と教えてくれた。暖房の対角線上に扇風機を置いて上向きに風を送ったり、窓際にストーブを置いて扇風機で部屋中に暖かい空気が巡るようにしたりすることで、少ない電力で暖を取れるという。

 

 ▼節電することで健康にも効果

 適切な節電の知識を持つことは電気料金を節約できるだけでなく、健康面にも作用する。夏は熱が室内にこもると熱中症につながることがあるが、冬は寒い部屋から熱い浴槽に入ると、血圧の急激な変化により体に異常をきたす「ヒートショック」につながる恐れがある。

脱衣所や浴室が寒い場合、体温維持のために血圧が上昇する。この状態で熱い湯船につかると血圧が急低下し、心停止につながることも

 東京都健康長寿医療センター研究所や総務省の調査によると、入浴中の事故発生数は交通事故の2倍以上だという。居間に断熱対策を施すことで、入浴時の体感の温度差を減らすことができる。浴室や脱衣所の窓に対策を施すことも効果的だ。

 また、冬で室温が下がり、窓や窓枠に結露ができるとカビが発生し、ぜんそくやアレルギーの原因になったり、家財が傷んだりすることもある。葭矢さんは「節電、省エネは環境や節約のためと思われがちだが、健康や家庭にもたくさんのメリットがある。さらに関心を持ってもらえるとうれしい」と呼びかけた。

結露によってカビが発生すると、建物や健康にも関わってくる

 

 これからの秋、冬は原油だけでなく、さまざまな物価の高騰が続きそうだ。支出を抑える上で節電は一つの有効な手段だが、正しい節電術を知ることはより良い生活を送ることにつながる。この冬は節電によって得られる恩恵を意識して、取り組みたい。