おかえり寅さん ただいま温泉津ー。「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です」の口上で始まる人情喜劇映画「男はつらいよ」の舞台となった大田市温泉津町の住民たちが、オリジナルクラフトビール「寅さんビール(TORASAN BEER)」を商品化し24日、大田市の楫野弘和市長に披露した。テレビの人気番組で紹介され、再び来訪者が増えている温泉津町。商品化の熱い思いと写真を紹介する。 (大田支局長・曽田元気)
1969年に始まった男はつらいよの映画シリーズは、故渥美清さん演じる寅さんが旅先で恋に落ち、騒動を巻き起こす物語。寅さんの人情と各地の美しい風景が織り交ぜられ、渥美さんが亡くなるまでに48作が公開された。

温泉津町や島根県津和野町が舞台になったのは74年の第13作「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」。焼き物が盛んな温泉津町内にある西日本最大級の登り窯や温泉街がロケ地になった。マドンナ役は吉永小百合さんが務めた。


原動力は住民の力
公開から約半世紀。温泉津町の人口減少は進み、空き家が増える中、2007年には世界遺産「石見銀山遺跡とその文化的景観」の構成エリアになった。近年は、にぎわいを取り戻そうと、国の重要伝統的建造物群保存地区選定の町並みを生かして、旅館や古民家の改修を進める動きが活発になっている。原動力は住民の力。温泉津には発想力、行動力の豊かな人材が多く、今、注目の町の一つ。

寅さんビールの開発は、寅年生まれで温泉津町在住、石見麦酒(江津市桜江町長谷)の和田谷光輝さん(36)が約半世紀前の作品に注目したのが始まり。和田さんの話を聞いた地元女性グループの温泉津女子会が企画した。

両者は20年に「温泉津ビール」「ゆのつエール」の名でご当地ビールを開発するなど連携してきた。今回は温泉津町井田地区のユズを使って爽やかさを出し、マドンナにほれながらも成就しない寅さんを連想させる「最初は甘く、後味に苦み」が特徴になっている。ラベルには寅さんのシルエットがデザインされ、マニア垂涎の一品として注目を浴びそうだ。

温泉津女子会の渡利章香会長(50)と和田谷さんらが楫野市長を訪ね、絶妙の泡加減でついだ一杯を楫野市長は絶賛し「(ラベルは)誰が見ても寅さんと分かるし、表情を想像できるからいいよね。地元の思いがこもった商品は訪れた人にPRできる」と太鼓判を押した。
寅さんサミットに出品へ
28日に温泉津町のスーパーおがわで、まずは限定100~150本で販売を始める。330ミリリットルで770円。ビールを求めた買い物客に温泉や町並みなど魅力あふれる温泉津を巡ってもらいたい考え。
29、30の両日には寅さんの地元、東京・葛飾区で、新型コロナウイルス禍前は8万人が訪れたという「寅さんサミット2022」に出品され、全国の根強いファンの訪問につながればと関係者は期待する。
喉を潤し、ちょっと切なく、心温まる。この秋、小瓶ではとても収まらない温泉津の人情に触れてみてはどうだろうか。