政府は、高騰する電気・ガス代の軽減策を目玉とする総合経済対策を決定した。物価高に苦しむ低所得世帯などへの支援は大切だが、対策は所得を問わず負担を緩和するばらまき型で国の支出規模は29兆円に達する。脱炭素へ向けた省エネに逆行する上、エネルギーの輸入量を高止まりさせ円安要因に働くなど矛盾に満ちた対策と言えよう。
関連支出などを含む対策の事業規模は71兆円超で、政府は財源の裏付けとなる2022年度の第2次補正予算案を臨時国会で成立させる方針。大半を国債発行による借金で賄うため財政を一層悪化させるのが確実だ。
対策は柱を「物価高騰への対応と賃上げの加速」とした。消費者物価(生鮮食品を除く)は9月に、前年同月比3・0%と消費税増税の影響を除くと31年ぶりの上昇率を記録しており、問題意識は理解できる。問われるのはその中身だ。
目玉は家庭のエネルギーコスト軽減で、電気代は2割削減を目指して使用量1キロワット時当たり7円を国が肩代わり。来年早期に始め、23年度前半まで続ける。都市ガスは使用1立方メートルにつき30円を支援。地方に多いLPガスは、事業者の配送合理化などを援助して価格抑制につなげる方策とした。
主にガソリン価格の抑制へ年初から続けている補助金は、段階的に縮減しながらも来年度前半までの再延長を決めた。
政府の試算では、これらの措置により標準的な世帯で、来年度前半にかけて計4万5千円程度の負担減になるという。
民間エコノミストらの分析で、物価高騰の家計負担は低所得世帯ほど重くなる傾向が分かっており、これらの家計に一助となるのは間違いない。
しかし高所得世帯にも恩恵が及ぶ上、使用量が減らず、エネルギー価格の高騰で消費者に広がる省エネの機運に水を差すのは避けられない。政府が旗を振る節電ポイントの施策とはちぐはぐだ。使用量が減らなければ高値の石油・ガスの大量輸入は続く上、決済に伴い莫大(ばくだい)な円売りドル買いが生じ、円安を一段と悪化させる恐れもある。
政府、与党はこれらの矛盾や財政負担、そして「出口」の問題を真剣に議論したのだろうか。
家計の苦境緩和には物価に打ち勝つ賃金の上昇が求められる。ところが対策には賃上げ促進税制の活用や、中小企業のコスト転嫁に向けた公正取引委員会の活動強化など、効果の乏しい既存策が並ぶ。岸田文雄首相が本気ならば、円安で多大なメリットを享受した企業に、従業員や下請け取引先への還元を迫る新施策を示してほしい。
対策には子育て支援として、10万円相当の出産準備金創設と現行の出産育児一時金の増額が盛り込まれた。少子化の危機打開へ支援の拡充は重要だが、本来は補正による泥縄的な対応でなく、当初予算でしっかりした施策を講ずべきものだ。
対策の焦点がぼやけ総花的となったのは「30兆円が発射台」(自民党の世耕弘成参院幹事長)と規模が優先されたためで、背景には岸田政権の支持率低下に加え、財政規律の緩みがあろう。
金融緩和の一環で日銀が大量に国債を購入し金利を抑え込んでいる結果、放漫財政でも英国のような混乱は表面化していない。だが水面下で静かに進行中の財政危機に、われわれは気付かねばならない。