王将フードサービスの大東隆行社長が撃たれた駐車場周辺を調べる京都府警の捜査員=2013年12月19日、京都市山科区
王将フードサービスの大東隆行社長が撃たれた駐車場周辺を調べる京都府警の捜査員=2013年12月19日、京都市山科区

 「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長が2013年12月に射殺された事件で京都府警は殺人などの疑いが強まったとして、別の事件で服役中の特定危険指定暴力団・工藤会系組幹部の男を逮捕した。上場企業のトップが京都市の本社前で射殺された衝撃的な事件の捜査は発生から9年近くを経て本格解明に向け動き出した。

 北九州市を拠点とする工藤会は、あいさつ料などの要求を断った事業者を襲撃する事件を繰り返し、12年に全国で唯一の特定危険指定暴力団に指定された。1998年から2014年にかけては元漁協組合長射殺や元福岡県警警部銃撃をはじめ一般市民を標的にした4事件を起こしている。

 4事件では、襲撃を指示したとして工藤会トップの総裁が殺人と組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われ、21年に福岡地裁は1人殺害では異例の死刑判決を言い渡した。総裁が関与した直接証拠はなかったが、工藤会に見られる上意下達の強固な組織性や関係者証言、状況証拠を基に総裁が首謀者だったと結論付けた。

 今回逮捕された組幹部の動機や背景は明らかになっておらず、4事件のように上からの指示があったのか、王将側との間にどのような接点があったのかなどについて、これから調べを進める。市民の安全を脅かす事件が二度と起きないよう徹底した解明が不可欠だ。

 王将社長だった大東隆行さんは13年12月19日早朝、京都市山科区の本社前にある駐車場で車を降りた直後に腹や胸に4発の銃弾を受け死亡。府警は銃を扱い慣れた者の犯行とみて捜査を進め、現場近くで逃走に使われたとみられるバイクとスクーターを発見した。

 スクーターが盗まれた市内の飲食店にある防犯カメラに写っていた九州のナンバーを付けた軽乗用車を調べ、所有者と交友関係のあった工藤会系組幹部が浮上。銃撃現場付近で見つかった吸い殻に付着したDNA型が組幹部のものと一致した。しかし吸い殻は誰かによって別の場所から持ち込まれた可能性も否定できない。物証が乏しいため、これまで逮捕には至らなかった。大東さんや王将側と組幹部との接点も確認されていない。

 射殺事件後、暴力団など反社会的勢力との関係を調べた王将の第三者委員会は16年、創業家が長年にわたり不動産売買などを通じて特定の企業グループの経営者に巨額の資金を流出させたとする報告書を公表した。だが当時の経営陣と反社会的勢力の関係は確認されなかったとした。

 組幹部は08年に福岡市内で大手ゼネコン大林組九州支店の社員らが乗った車に4発発砲したとして銃刀法違反などで逮捕、起訴され、20年11月に懲役10年が確定し福岡刑務所に服役していた。福岡県では、ほかにも11年2月に北九州市内で清水建設の男性社員が銃撃され負傷するなど、あいさつ料の要求を断ったゼネコンや建設会社を工藤会が襲う事件があり、未解決事件も少なくない。

 府警は今後、組幹部の取り調べや関係先の家宅捜索など捜査を本格化させる。ただ有力な証拠はないとみられ、状況証拠や関係者証言を丹念に積み上げて組幹部の関与を固めていくことになるだろう。上からの指示も含めて事件の全容を解明し、社会の安全安心につなげていく必要がある。