政府は新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行対策を決めた。高齢者らの医療機関受診を優先し、重症化リスクが低い若者らは受診を控えてコロナ検査キットやオンライン診療を活用するよう促すのが柱だ。
コロナ感染者は欧州などで一足早く増加傾向だ。日本国内に流行の「第8波」が迫っており、専門家は第7波より大規模になる懸念を示す。インフルエンザも南半球に続いて北米で流行し始めた。今冬に日本で同時流行する可能性は高く、政府はピーク時に1日計75万人の患者発生を想定する。そうなれば医療機関に殺到し、あっという間に現場は逼迫(ひっぱく)しかねない。
だとすれば、発熱外来への若者らのアクセスを抑制し、重症化リスクが高い人々の治療を優先することは、救える命が救えなくなる事態を避けるために現実的な判断だ。
ただ、自分が低リスクなのか否か自体、判断は難しい。自宅療養中の若者の病状が急変する場合もある。やはり政府、自治体は受診抑制を強調する前に、最大限多くの患者を受け入れられるよう医療提供体制を強化することを、まずは対策の基本とするべきだ。
1日当たり5万人だった入国者数上限が10月から撤廃された。訪日観光客の個人ツアーも解禁され、水際対策はほぼコロナ禍前に戻った。国内でも全国旅行支援が始まっている。3年近くにわたるコロナ禍から経済を再生させることは大事だ。だが、これらが同時流行の引き金を引く危険性にも留意し、感染拡大の兆候があれば直ちに危機対応に戻る備えも必要だ。
政府が同時流行で想定する患者の動きはこうだ。重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患がある人、妊婦、小学生以下の子どもには速やかな発熱外来受診を推奨。それ以外の人はコロナ検査キットで自己検査し陽性なら健康フォローアップセンターに登録して自宅療養してもらう。陰性の場合はオンライン診療やかかりつけ医の活用を促す。
このオンライン診療では、インフルエンザの検査をしなくても必要に応じタミフルなど治療薬を処方するというが、適切な診断を下すには検査の手順も必要ではないか。
自宅療養するコロナ陽性者も、症状を重く感じた場合は、自己検査前から発熱外来を受診できるようにするという。だが、もし健康フォローアップセンターの業務がパンクすれば自宅療養者は孤立状態に陥りかねない。政府は、自己検査のためのキット約2億4千万回分を確保したというが、自宅療養者に安心してもらうにはセンターの体制強化が欠かせない。
同時流行対策では、ワクチン接種も引き続き大きな柱となる。コロナのオミクロン株対応ワクチンは、10月中に全国で1日約168万回打てる態勢が整う見通しだ。今月から接種が始まったインフルエンザワクチンも、大流行に備えて過去最多の大人で約7千万人分が供給される見込みだ。
コロナワクチン接種の加速により第8波を抑え込めれば、インフルエンザとの同時流行は回避できる。流行抑制の鍵を握るとされる20~40代の人は、より積極的に接種してほしい。希望すればインフルエンザワクチンとの同時接種も可能だ。
第7波では子どもの重症例が増えた。子どもの接種も進むよう政府は、副反応の不安解消へ説明の努力を尽くすべきだ。