ソウルの繁華街・梨泰院で発生した事故で、救助され座り込む負傷者ら=30日(ロイター=共同)
ソウルの繁華街・梨泰院で発生した事故で、救助され座り込む負傷者ら=30日(ロイター=共同)

 あってはならない大惨事が起きてしまった。韓国ソウルの著名な繁華街・梨泰院(イテウォン)で、ハロウィーン直前の週末を楽しむ多数の若者らが折り重なるように倒れ、日本人女性2人を含む150人以上が死亡、多数が負傷する雑踏事故となった。心から犠牲者を悼み、負傷者の一日も早い回復を祈りたい。

 現地メディアなどでは、当局の警備計画に欠陥があったとの見方が広がっている。韓国紙によると、梨泰院周辺には十数万人が繰り出したが、警察の配置は100~200人程度で「足りない」との批判も出ている。

 相当の人出があることは予見できたはずだ。事前の警備計画の立案、関係機関の連携などは十分だったのか。事態の悪化に柔軟に対処できたのか。分刻みですべてを明らかにするほど、徹底した検証が不可欠だ。

 日本でも過去に同種の悲劇が起きている。韓国の検証結果を共有し、教訓をくみ取って、将来の安全確保に万全を期さねばならない。

 梨泰院は周辺に在韓米軍司令部があったことから米国発の文化が広がった地区だ。2018年に司令部が移転し、飲食店やブティックなどが軒を連ねる観光名所になった。韓国の大ヒットドラマの舞台にもなり、国際的な人気も高まっている。

 事故が起きたのは10月29日夜。大型ホテルの高い壁と立ち並ぶ飲食店に挟まれた幅3メートル、長さ40メートルほどの狭い坂道が、身動きが取れないほどの大混雑となった。逃げ場がない中、押し合いへし合いし、人々が次々に転倒した。亡くなった人の多くが圧死とみられる。

 インターネット上には、当時の撮影とみられる動画が多数投稿されている。防犯カメラの映像も残っているはずだ。韓国当局はこれらを収集、詳細に分析し、事故状況の把握に努めてもらいたい。

 最終的には分析結果を待たなければならないが、既に多くの専門家らが「群衆雪崩」が発生したとの見方を示している。

 これは1平方メートルに10人以上が詰め込まれた混雑状況で、1人がしゃがむなどわずかな動きをしただけで、その隙間に人が倒れ込み、転倒が雪崩のように広がる現象だ。当時1平方メートルに12人以上だったとの推計を伝える韓国メディアもある。

 兵庫県明石市で01年、花火大会の見物客多数が歩道橋上で転倒、幼い子どもを中心に11人が死亡、247人が負傷した事故も群衆雪崩が原因だったとされる。

 この事故では、警備に携わった地元警察署や警備会社、花火大会主催者の市の幹部ら5人が業務上過失致死傷罪に問われ、有罪が確定した。警察庁は事故を受けて、全国の警察本部と警察署に雑踏警備を担当する「指導官」と「主任者」を置くよう指示、警備計画の立案や主催者の指導などの強化を図った。その後、国内での大規模な雑踏事故は発生していないが、あぐらをかいてはならない。

 韓国では新型コロナウイルス対策を巡り、屋外でのマスク着用義務や、飲食店の営業時間規制などが解除されて初めて迎えるハロウィーンだったことが、人出増に拍車をかけたとの指摘もある。

 日本でも今後、コロナ規制の緩和によって、イベントなどで同様の状況に陥る可能性がある。ソウルの事故は決して対岸の火事ではない。今後の検証を注視したい。