今冬の電力需給が懸念される中、中国電力にとって安定供給の切り札になりそうだ。
三隅発電所2号機(浜田市三隅町岡見)の営業運転が1日、始まった。出力100万キロワットは石炭火力としては1基当たりで国内最大級。蒸気の温度や圧力を上げて効率を高める最新鋭の発電方式「超々臨界圧(USC)」を採用しており、燃料費や二酸化炭素(CO2)排出量を削減できるという。
ウクライナ危機を背景に火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)の安定調達に懸念があり、供給力確保は見通しにくくなっている。災害で発電所が停止するなど不測の事態に陥れば需給が急激に逼迫(ひっぱく)する可能性もあり、政府は同日、全国の家庭や企業を対象とした冬季(12月1日から来年3月31日まで)の節電要請を正式決定した。数値目標はないものの、全国規模での冬の節電要請は2015年度以来7年ぶりだ。
そんな中で営業運転を開始した三隅2号機を、瀧本夏彦社長は「今冬の安定供給の面で大変心強い存在」と位置付ける。
だが、従来より排出量を削減するとはいえ、脱炭素化の中でCO2を多く排出する石炭火力に抵抗感を抱く人も少なくない。環境負荷のさらなる低減に向けて、アンモニアへの燃料転換を図るなどの取り組みも必要だ。
苦境に立つ経営環境の改善に向け、瀧本社長は「価格変動リスクの低減策として大きな役割を果たす。電力卸市場からの調達量削減に寄与する」と期待を寄せるものの、その効果は限定的だろう。
中電は三隅2号機の営業運転開始を前にした10月28日、燃料価格や電力市場価格の高騰を要因に、23年4月に企業向け電気料金を現行より16~17%値上げすると発表したばかり。一般家庭向けの規制料金も同月に値上げする方針を示し、11月中の認可申請に向けて準備を進めている。物価高にあえぐ市民にとって金銭面の負担が増えることに変わりない。
思い返せば、三隅2号機の建設計画はその時世の社会情勢に翻弄(ほんろう)されてきた。
1号機(100万キロワット)が営業運転を開始したのが1998年6月。70年代のオイルショックを経験した中電が電力供給源の多様化で「脱・石油」を目指し、石炭火力の比重を高めることにしたのが発端だった。土地や漁業補償の交渉が難航したが、合併前の三隅町も、将来の町の繁栄の基礎になるとして受け入れを決めた。
2号機も当初、2001年6月の着工を予定していたが、電力自由化で需要と供給のバランスの先行きが不透明になったなどとして、中電は01年、03、10年の3度にわたって着工時期を延期した。
ところが、東京電力福島第1原発事故の影響で島根原発(松江市鹿島町片句)の運転停止が続く中、管内の他の火力発電所の老朽化に対応するため、中電は24年度以降に着工、27年度以降に運転開始としてきた計画の前倒しを決定。出力も当初計画の40万キロワットから100万キロワットへ増強し、4年前の18年11月1日に着工していた。
地元経済界にとって待望の営業運転開始だが、宿泊業界にとっては試練の時となりそうだ。コロナ禍に関わらず、工事従事者の需要で潤ってきたものの、今後は3年に1度の定期点検があるのみに。新たなニーズを探り、差別化を図ることになる。