新型コロナウイルスの感染が拡大する中で減収となり困窮した人に、国が特例として無利子で生活資金を貸す「緊急小口資金」と「総合支援資金」が計約1兆4270億円に達した。リーマン・ショックで景気低迷に陥った2009~11年度の3年間で貸付総額は706億円余り。その20倍となり、政府関係者は「空前絶後」としている。

 リーマン・ショック時よりも上限額を引き上げるなど貸し付け要件を緩和したり、申請手続きを簡素化したりしたことから単純比較はできないが、コロナ禍がもたらした影響の大きさと深刻さを改めて浮き彫りにした形だ。申請は9月末で締め切られ、早ければ来年1月から返済が始まる。

 特例貸付金で、失業や雇い止めによる収入の落ち込みをしのいだ人は多いだろう。しかし感染拡大の長期化に伴い総合支援資金の再貸し付けも行われ、上限いっぱい利用した場合は200万円の借金を抱える。最近の物価高騰もあり、返済は容易ではない。自己破産や債務整理の手続きを余儀なくされる人は相当数に上るとみられている。

 返済免除の仕組みもあるが、専門家から「対象となる範囲が狭過ぎて不十分」と批判が相次いでいる。国は、なかなか困窮から抜け出せず返済に苦しむ人の生活再建をしっかり支えるため、免除の拡大や相談態勢の充実、新たな現金給付など手を尽くす必要がある。

 特例貸し付けは一時的に生活資金が必要になった人が最大20万円まで借りられる緊急小口資金と、主に失業した人向けで最大60万円の総合支援資金とがあり、20年3月に始まった。困窮者を支援するための制度はもともとあり、コロナ禍で貸し付け要件を緩めたり、対象を広げたりした。

 窓口となった各地の社会福祉協議会には申請が殺到。申請期間の延長が繰り返され、総合支援資金は再貸し付けもあって、最大180万円を借りられるようになった。

 だが共同通信が全国の社協に問い合わせたところ、10月下旬までに少なくとも延べ約1万3千人が特例貸し付け返済の見通しを立てられず、自己破産や債務整理の手続きをしていることが分かった。特例貸し付けだけでなく、カードローンなども利用し多重債務に陥ってしまった例が少なくないと指摘される。

 住民税非課税の低所得世帯は返済を免除されるが、非課税の目安は東京都内の単身世帯なら年収約100万円以下。対象は狭く、コロナ禍で特に大きな影響を受けたひとり親や非正規で働く人、フリーランスにはかなり厳しい線引きとなろう。

 日弁連は先に会長声明を公表。「困窮世帯にとっては、長期にわたる返済自体が生計破綻の引き金となる危険が高い」とし「免除の範囲を抜本的に拡大すべきだ」と政府に対応を求めている。

 特例貸し付けが困窮した人の生活支援に一定の役割を果たしたのは間違いない。ただ迅速な貸し付けを優先し、申請を郵送で受け付け書類審査だけで貸すケースが多かったとされる。対面のように詳しい生活状況をつかめず、返済計画も含めた生計の立て直しにつなげられなかった面があるのは否めない。

 「借金を背負わせただけ」との声も広がっており、一人一人から生活状況を丁寧に聞き取り、きめの細かい支援を行うことが求められている。