北朝鮮が発射した弾道ミサイルに対して、政府が発令した全国瞬時警報システム(Jアラート)が混乱した。実際には日本上空を越えていないのに「通過したとみられる」との情報を出し、その後に訂正した。
10月にJアラートを発令した際も、警戒の必要がなかった地域に誤って発信するミスがあった。こうした事態が繰り返されれば、Jアラートに対する国民の信頼が損なわれ、いざというときに機能しなくなる恐れがある。政府は混乱の原因を精査し、国民にきちんと説明すべきだ。
短時間で到達するミサイルに対し、発令までに時間のかかるJアラートの有効性や、大気圏外を飛ぶ弾道ミサイルに対して、地上での避難を呼びかけることの合理性にも疑問がある。
異例のペースで弾道ミサイルの発射を続ける北朝鮮は発射基地の多様化などを進めており、発射の探知は困難になっている。軍事的な対抗措置には限界があり、脅威を取り除くには、ミサイル発射をやめさせる外交努力を尽くすしかない。北朝鮮を対話のテーブルにどうやって着かせるのか。日本を含む関係各国の外交力が問われている。
Jアラートはミサイルが日本の領土・領海に落下したり、上空を通過したりする可能性があると防衛省が判断した場合、内閣官房が発令する。3日は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を受けて宮城、山形、新潟の3県を対象に、建物の中や地下に避難するよう呼びかけた。
松野博一官房長官は「ミサイルの軌道を計算して、日本上空通過の可能性があれば発令する」と説明する。万一を考えればこの措置は理解できる。だが、問題は「太平洋へ通過した」とした2回目のJアラートだ。実際には日本上空を越えておらず、防衛省は約40分後に発表を訂正した。
北朝鮮が3日午前に発射した3発は、いずれも日本海に落下している。なぜ「通過した」とのJアラートが出たのか。防衛省は「日本列島を越える可能性のある飛翔(ひしょう)体を探知した」としか説明していないが、住民の不安を招き、東北新幹線などが一時運転を見合わせるなどの影響が出ている。ミサイル探知能力などの機密事項もあろうが、Jアラートの信頼性を確保するために原因の徹底した調査が必要だ。
Jアラートはそもそもその有効性に疑問が指摘されている。3日の場合、北朝鮮が最初の1発を発射したのは午前7時39分。これに対して1回目のJアラートは7時50分だ。さらに8時の2回目のJアラートは「7時48分ごろ、太平洋へ通過した」としている。
本当に日本上空を越えていたとすれば、1回目の情報発出時には既に通過していたことになる。これで避難を呼びかけても意味はあるまい。
北朝鮮のミサイル発射技術の高度化で探知は難しくなっている。情報収集能力を高めて時間を短縮したとしてもごくわずかにとどまるだろう。
岸田政権が保有を検討する「敵基地攻撃能力」(反撃能力)は、発射着手の段階で攻撃するものだが、これも発射の動きがつかめなければ機能しない。
北朝鮮は核実験を行う動きもあり、地域の脅威を高める行動は断じて許せない。その暴挙をやめさせる外交構想が今こそ求められている。