日本学術会議の総会で発言する梶田隆章会長(奥左から2人目)=8日午後、東京都港区
日本学術会議の総会で発言する梶田隆章会長(奥左から2人目)=8日午後、東京都港区

 結論は既に政治家と役人で決定済み。審議会で「専門家」にお墨付きをもらい粛々と施策が進められる。霞が関によくある光景だ。しかしそんなお手盛りの組織に存在意義はあるのか。

 政府は今月6日、日本学術会議の組織見直しについての方針を示した。自民党が政府から切り離した法人組織とするよう求めていたのに対し、「国の特別の機関」という現在の位置付けは維持されることになった。

 政府や産業界と「問題意識や時間軸を共有しつつ、中長期的、俯瞰(ふかん)的、分野横断的な課題に対する質の高い科学的助言」を出す機能の強化を図るとした。今や政治も目先の物事を追うばかりで時間軸が短くなっているのに、ニーズはあるのか。

 ポイントは会員選考に産業界など第三者を関与させる点だ。外から候補の推薦を受けることや、選考に意見を言う第三者委員会を設けるという。お手盛りの組織にしたいとの意地だけは感じる。だが、それで何をしたいのかが抜け落ちている。

 その国の科学者を代表する「アカデミー」と呼ばれる組織では、おおむねどこでも新会員は現会員によって推薦され、選ばれる。学術上高い評価を得た会員で構成されるべきで、選べるのは会員しかいないからだ。

 日本の科学者を代表する学術会議も同様の選考方法を取り、選出過程の透明化にも取り組んでいる。政府方針は学術会議を劣化させ、中立性を損ない、社会からの信頼をも失わせるだけだ。先進国のすることではない。

 方針は「独立して職務を行うことから、他の行政機関以上の徹底した透明性が求められる」とも記す。森友学園や加計学園を巡る問題、何よりも学術会議会員の任命拒否問題で政府の「透明性」がどのようなものだったか思い出す必要がある。

 2年余り前、当時の菅義偉首相は従来のルールに反し同会議が推薦した会員候補のうち6人を任命しなかった。理由を説明せず欠員補充もない。非難を浴びると政府・与党は学術会議の「改革」に議論をすり替えた。

 そうした経緯もあり、政府が「改革」で何を実現したいのかがいつまでも定まらないのだろう。学術会議の政府に対する助言機能の強化で政策をどう進化させるのかを、まず社会に示すべきだ。

 組織見直しはさておき、学術会議には行政のレベルアップにもっと貢献してもらいたい。例えば政策の検証を科学的見地から担ってほしい。

 米国で新産業を育てたスモール・ビジネス・イノベーション・リサーチ(SBIR)という制度をまねた施策を20年余り続けたものの、不発に終わった。米国と違い、博士を支援対象の主力にしなかったことが一因だ。

 感染症対策も失敗した。2009年に発生した新型インフルエンザ流行を受け、厚生労働省の専門家会議が感染症対策の充実を提言したのに、実行されなかったためだ。

 そんな事例が後を絶たないのは検証機能がないからだ。政府から独立している学術会議ならば、気兼ねなく現状を分析し社会に報告し、改善策を提言できるはずだ。

 それには専門知識を持つ職員を大幅に増やす必要がある。学術会議も機能強化に向け、態勢の拡充を掲げる。博士たちの活躍の場となり、政策も磨かれる。政府はそうした「真の改革」を後押しすべきだ。