「ニューヨークの夢」を収録したザ・ポーグスのアルバム「堕ちた天使」(欧米盤)
「ニューヨークの夢」を収録したザ・ポーグスのアルバム「堕ちた天使」(欧米盤)

 ザ・ポーグスが1987年に発表したクリスマス・ソング「ニューヨークの夢」は魅力にあふれた歌だ。ボーカルのシェイン・マガウアンと女性シンガー・ソングライターのカースティ・マッコールのデュエットがロマンティックで猥雑(わいざつ)で切なくて、なんとも言えない味わいを醸し出す。アイリッシュ・トラッド・パンクバンドが生んだ奇跡のような歌だと思う。

 原題は「ニューヨークのおとぎ話」という意味のFairytale of New York(フェアリーテイル・オブ・ニュー・ヨーク)。パンクバンドにはそぐわないような美しいピアノのイントロで静かに始まり、酔いどれボーカルのシェインと表情豊かなハスキーボイスのカースティ・マッコールの掛け合い、そしてアイリッシュ・トラッド音楽全開となる。

ザ・ポーグス

 簡単に聞き取れたと思った「ユワ・ハンサム」「ユワ・プリティ、クイーン・オブ・ニュー・ヨーク・シティ」の歌詞を現在形だと勘違いしたりして、若い男女の幸せいっぱいの歌だと長い間思い込んでいた。が、後に歌詞を知り、後半の掛け合いは文字にするのもはばかられるような汚い言葉の応酬(日本人の自分が英語を聞いている限りでは感じないけれど)であることにびっくり。アイルランドから夢を抱いてニューヨークに移った夫婦の物語を、アイルランドの古いフォークソング2曲と絡めて描く奥深い歌だと分かって、さらに好きになった。

 作ったのは、歌っているシェイン・マガウアンとジェム・ファイナーのメンバー2人。88年のアルバム「堕ちた天使(If I Should Fall From Grace With God)」に収録されている。当初はデュエット相手に唯一の女性メンバー、ケイト・オーリアダンが考えられていたが、その時バンドをプロデュースしていたあのエルビス・コステロと結婚して脱退したために立ち消えに。今度は「堕ちた天使」制作に合わせ、あのプリテンダーズのクリッシー・ハインドを迎えようと計画したものの、声質の問題からプロデューサーのスティーブ・リリーホワイトの判断で、妻のカースティ・マッコールに決まったそうだ(カースティ・マッコールのアルバム「カイト」の山田道成さんの解説より)。クリッシー・ハインド版も聞いてみたい気がするが、敏腕プロデューサーの判断はさすがだと思う。

「ニューヨークの夢」を収録したカースティ・マッコールのベストアルバム「GALORE」

 そのカースティ・マッコールは、ポーグスもセカンドアルバムでカバーしている有名な「ダーティ・オールド・タウン」を歌った英国のフォーク歌手ユワン・マッコールの娘で、トレイシー・ウルマンが84年にヒットさせた「夢見るトレイシー(They Don‘t Know)」の作者でもある。ポーグスとは「堕ちた天使」に続くアルバム「ピース・アンド・ラヴ」でも共演、「ローレライ」という曲でメンバーのフィリップ・シェブロンとデュエットしている。逆に彼女のアルバム「エレクトリック・ランドレディ」ではポーグスが1曲演奏で参加している。ソロとして、夫のプロデュースで優れたアルバムをいくつか残したが、2000年に海の事故により41歳の若さで亡くなってしまった。

 ポーグスはアイルランド人のシェインらが英国で82年に結成したバンドが始まり。アイルランドの伝統音楽(ケルト音楽)とパンクを融合させた独特の音楽で人気を集めた。「堕ちた天使」は3枚目のアルバムで最高傑作と多くが認める。シェインは飲酒が過ぎて音楽活動が難しくなり91年に脱退。バンドも96年に解散した。2020年には、破天荒なシェインの人生を描いた映画「シェイン 世界が愛する厄介者のうた」が俳優ジョニー・デップの製作で作られ、日本では今年公開された。そんなシェインの誕生日はクリスマスの12月25日(1957年)。現在、病気で状態はあまりよくないようだ。回復を願う。(洋)
 

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