W杯日本代表メンバーと面会し、森保一監督(左)と互いにサインした手帳を交換して笑顔の岸田文雄首相=12月8日、首相官邸
W杯日本代表メンバーと面会し、森保一監督(左)と互いにサインした手帳を交換して笑顔の岸田文雄首相=12月8日、首相官邸

 新しい年を迎えても、サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会の余韻に浸っている人も多いのではないか。日本代表は目標の8強入りを逃し、「新しい景色」を見ることはできなかったが、優勝経験を持つ強豪のドイツ、スペインから金星を挙げ、激戦の1次リーグE組を首位で突破。世界中を驚かせた。

 その采配を絶賛されたのが、指揮官の森保一監督。2試合ともに1点をリードされて前半を終えると、後半に次々と交代選手を投入。代わった選手がそろって活躍して逆転につなげた。

 アジア地区予選の序盤の不振で解任論も飛び出したほか、故障を抱えた選手の選出を疑問視する声もあったが、「結果」で雑音を抑え込んだ。2026年の次回W杯へ向け、続投が決定したのも当然だろう。

 それに比べ、わが国の指揮官の評価は低空飛行が続く。昨夏の参院選で大勝し、衆院を解散しない限り、25年夏の参院選まで大型国政選挙がない「黄金の3年間」を手に入れた頃から、独断専行が目立ち始めた。

 昨夏の参院選街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の国葬実施を早々に決めてしまったのが皮切り。

 エネルギー政策では、将来的な電力の安定供給を理由に、原発の新増設と既存原発の運転期間延長を打ち出すと、脱炭素社会への取り組みを議論する政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」も追認。東京電力福島第1原発事故後に「原発依存度を可能な限り低減する」としてきた方針をあっさり転換してしまった。

 また、防衛費を大幅に増やす方針を決定し、「安定的な財源が必要だ」として増税を表明。東日本大震災後に創設された復興特別所得税の一部を事実上流用することも決めてしまった。

 エネルギー、防衛政策とも、ロシアによるウクライナ侵攻という特殊事情が影響しているのは理解できる。だが、本来は国会で熟議を重ねるべき重要な政策転換のはずなのに、臨時国会が終わった後、政府と与党内の協議だけで決まってしまった。

 「聞く力」をセールスポイントにする首相とは思えない独善ぶり。世論の反発を受け、自民党の萩生田光一政調会長が、防衛費増額に伴う増税の前に衆院解散・総選挙で国民に信を問う必要があるとの認識を示し、首相も総選挙に含みを持たせた。

 とはいえ、国民への理解活動を軽視し続ければ、内閣支持率が「イエローカード(警告)」から「レッドカード(退場)」に変わり、新たな指揮官選出に関心が移るのも時間の問題だ。首相にとって試練の1年になる。

 足元に目を移すと、今年は4年に1度の統一地方選を控え、新たな指揮官を決める島根、鳥取両県知事選が投開票される。

 4年目を迎える新型コロナウイルス対策に、活力ある産業づくり、子育てから老後まで安心できる生活環境の整備、中山間地域・離島振興など県政課題は山積している。

 加えて、東京一極集中を是正する特効薬が見つからない中、最大の課題である人口減少を少しでも改善し、「縮む地域」を活性化させるには、人を呼び込む魅力づくりが欠かせない。

 例え自力(財源)では及ばなくても、戦力(アピールポイント)を整え、戦術(知恵)を磨き、指揮官がぶれずに実践すれば、どんな強豪にも太刀打ちできることを、W杯の「森保ジャパン」が証明している。