国民の命と暮らしに関わる重い課題を抱えて、政府、与野党は2023年を迎えた。
安全保障政策や原子力政策の大転換を主導した岸田文雄首相の責任は増している。年内にも衆院解散・総選挙の時期が政治日程に上ってくる可能性があり、岸田政権の真価が問われる1年になろう。
岸田首相は9月に自民党総裁任期(3年)が残り1年となり、10月には衆院議員が任期(4年)の折り返し点を迎える。それらに先立ち4月には4年に1度の統一地方選、5月には広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)がある。
中央政界では、衆院議員の在職期間が2年を過ぎれば、衆院選の準備が本格化する。与野党は衆院小選挙区定数の10増10減に伴う候補者選定を進めている。
1月下旬に召集見込みで会期が150日間の通常国会では、こうした日程をにらんだ論戦が展開されよう。
当面の焦点は、23年度予算案編成で過去最大の6兆8219億円を計上した防衛費の妥当性だ。他国のミサイル発射拠点を攻撃できる反撃能力(敵基地攻撃能力)保有に向けた米国製巡航ミサイルの取得費も入っている。
中国や北朝鮮の武力行使を抑止するため、27年度までの5年間に約43兆円を防衛力の強化に投じる岸田政権の決定に基づく。この間には、財源確保のための増税にも踏み切る。
岸田首相は、国家安全保障会議(NSC)や有識者ヒアリングによる「1年以上にわたる丁寧なプロセス」を経ていると説明。増税方針に関しては「自問自答」を重ね、自民、公明両党の協議に諮った結果だと強調した。
憲法9条に基づく専守防衛の理念は堅持するとは言うものの、しょせんは政権内の論議にとどまる。万が一、抑止力が働かず、日本が他国に対し反撃能力を発揮した場合、日本攻撃のさらなる口実を与え、国内に被害が及ぶ恐れは否定できない。
それでも首相判断に国民の賛同が得られるかどうか。国会では率直かつ徹底した審議が必要だ。
原発回帰政策も同様だ。岸田政権は、11年の東日本大震災による東京電力福島第1原発事故後の「原発依存度を可能な限り低減する」との方針を一転、運転期間の延長や建て替えを打ち出した。
ロシアのウクライナ侵攻が招いたエネルギー危機と気候変動対策が理由だが、被災地を含め国民的議論を踏まえた結論とは言いがたい。次世代型原発の導入といっても、重大事故を起こさない保証はあるのか。首相は拙速を慎み、国会の質疑には時間をかけ謙虚に対応すべきだ。
低迷する賃金に、追い打ちをかける物価高騰。収束の気配が見えない新型コロナウイルス感染症。国民生活に直接影響するこれらの課題対処に加え、自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の不明朗な関係の究明も残る。G7サミットでは「核兵器のない世界」を目指す首相の外交手腕が試される。
岸田首相は、政府が「24年以降の適切な時期」としている防衛増税が始まる前に、国民の信を問う衆院選が「あり得る」との考えを示した。首相は信条とする「信頼と共感の政治」を実行しているか。審判の日に備え、立憲民主党など野党の主張とともに吟味していきたい。