「こども家庭庁」設立準備室の職員に訓示する当時の野田こども政策相=2022年7月、東京都千代田区
「こども家庭庁」設立準備室の職員に訓示する当時の野田こども政策相=2022年7月、東京都千代田区

 2023年は少子化対策の行方が焦点となる。政府は全世代型社会保障構築本部の報告書で、子育て支援拡大を求めながら必須となる財源論に触れず、岸田政権が目玉政策とする「子ども関連予算倍増」の議論を23年夏まで先送りしたためだ。

 22年の赤ちゃんの出生数は想定より8年早いペースで減り、初めて80万人割れする見通しだ。「地域社会を消滅に導き、経済社会を縮小スパイラルに突入させる。国の存続にかかわる」とした報告書の危機感は正しい。

 安倍晋三元首相が「国難」と言った少子化はこうしている間にも進行し決して待ってくれない。直ちに体制を整えて立ち向かうべきだ。足踏みは日本の将来を危うくする。

 日本は子育て支援への公的支出が比較的少ない。子育て政策を含む20年度の家族関係支出約10兆5千億円は、国内総生産(GDP)比で2・01%。増えつつあるが、3%前後を保つ欧州主要国に及ばない。これが、少子化に一定の歯止めをかけたフランスやスウェーデンと明暗を分けた要因と指摘されてきた。重く受け止める必要がある。

 岸田文雄首相は政権発足当初から子ども予算の「将来的な倍増」を表明してきたが、実現は容易ではない。政府は子ども政策を一元化するため「こども家庭庁」を23年4月に創設する。23年度の同庁予算案は前年度関連予算から1233億円増の4兆8104億円だ。倍増には5兆円近い上積みが必要になる。

 岸田政権は、防衛費とそれを補完する取り組みを合わせた予算水準も27年度にGDP比2%へ「倍増」させる方針だ。その時点で必要な増額分約4兆円は、法人税を軸に1兆1千億円程度の増税と歳出改革などで捻出する。こうした全体状況の中、子ども予算倍増の財源論に踏み込めば、反発する世論の火に油を注ぎかねないと政権は判断したのだろう。

 首相は、23年夏の経済財政運営指針「骨太方針」で「子ども予算倍増の道筋を示す」と言う。これは国民の不興を買う負担増の議論は、春の統一地方選より後回しにしたいとの狙いが透ける。22年夏の参院選前も勝利優先で、子育て支援や社会保障の負担増の話題を避けた。同じことを繰り返すのだろうか。

 しかも政府与党内が賛否両論で紛糾した防衛増税の議論も23年後半には「24年以降の実施時期」を巡り再燃するのは必至。先送りすればするほど問題は大きく複雑になるばかりだ。

 全世代型社会保障の報告書は、子育て支援の具体策を示し23年度からの実行を求めた。原則42万円の「出産育児一時金」を50万円に増額、妊産婦への計10万円相当の給付を継続、育児休業給付の対象外の自営業やフリーランス向けに現金支給、児童手当拡充―などだ。

 これだけ手厚い支出に財源の裏付けがないのは無責任だ。少子化対策や社会保障の財源は、広く薄く集め税収が安定的な消費税が向くとされる。だが首相は「消費税率は10年程度上げる考えはない」と言う。企業が負担する「事業主拠出金」も有力視されるが、防衛増税と合わせた経済界への負担は大きく抵抗が必至だ。

 地殻変動のように進む少子化は、目に見えにくい脅威だ。だからと言って今を生きる私たちが痛みを後回しにすれば、その分、将来世代が苦しむことに思いを至らせたい。