岸田政権は昨年末に地域活性化の新たな5カ年計画「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を閣議決定した。今年は実現に向けたスタートとなる。「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目標に掲げたのは、地域維持の意思が見える点から評価できる。
新型コロナウイルス感染症の懸念はあるものの、海外からの観光客は戻ってきた。観光立国に向けて再始動の年でもある。観光客をうまく受け入れ地域経済の好循環を生み出したい。
総合戦略はデジタルを活用した多様な政策を盛り込んだ。目標には「東京圏への過度な一極集中の是正」を図り、2027年度には地方と東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)との転出・転入の均衡を示した。この設定を手放しでは喜べない。
実は、14年12月に安倍政権が打ち出した地方創生の総合戦略にも「20年に東京圏との転出入の均衡」があったからだ。大きな成果は文化庁の京都移転ぐらいで、企業の本社機能の地方移転もあまり進んでいない。
新型コロナの流行から近年はリモートワークが普及したものの21年度の東京圏は、転入者が転出者を約8万4千人上回る転入超過だ。全国から若者、特に若い女性を呼び込む状況が続く。達成できない要因を十分に分析せずに目標を踏襲したのは問題だと指摘したい。
岸田政権の戦略は、サテライトオフィスの整備やテレワーク推進による「転職なき移住」など国の支援事業による東京圏から地方への移住を27年度には1万人(21年度の約4倍)にするとした。女性らに選ばれる地域づくりを打ち出したのは新しい視点と言える。これらの実現には経済界の協力が不可欠である。
だが、どのような政策の積み上げで本当に均衡を達成できるのかは具体的に示していない。このままでは安倍政権と同じ轍(てつ)を踏むのは明らかだ。イメージ先行で今春の統一地方選対策と批判されても仕方ないだろう。
昨年の出生数が80万人を切ったのは確実で、超高齢社会の中で人口減少は加速している。今後も人が住まない地域が増え、誰も管理しない土地や住宅が全国で増加する。その影響は地方圏に顕著に表れる。地域では日常生活を守ることが最大の課題となりつつある。
戦略は人口が10万人ぐらいを一つの生活圏として商業や医療などのサービスを確保する「地域生活圏」などを進めるとするが、これらの施策だけで維持は期待できない。
急速な人口減少への政府の危機感は乏し過ぎる。一極集中の是正と合わせ、最後のチャンスと捉えて、政府はもっと真摯(しんし)に取り組むべきである。
観光は地域の基幹産業の一つであり、経済の活性化にも効果的だ。同じ場所への旅行客の集中が起こした混雑や住民とのトラブルといった、コロナ前の失敗を繰り返さない工夫が重要となる。
訪れる時間や季節の平準化が改善には有効だ。年間を通じて観光客が来れば、閑散期が減り、ホテルなどの安定した雇用を増やす。行政が中心となって持続的な観光地づくりを推進してほしい。
訪日客は外交関係の悪化や感染症の流行によって急減する。経済への影響を避けるためにも一つの国に頼るのではなく、欧米も含めできるだけ多くの国から長期滞在する人を招くような観光に力を入れたい。