経済3団体の新年祝賀会後、記者会見する(左から)経団連の十倉雅和会長、日本商工会議所の小林健会頭、経済同友会の桜田謙悟代表幹事=5日午後、東京都内(代表撮影)
経済3団体の新年祝賀会後、記者会見する(左から)経団連の十倉雅和会長、日本商工会議所の小林健会頭、経済同友会の桜田謙悟代表幹事=5日午後、東京都内(代表撮影)

 2023年は、食料品などが値上がり傾向を強める中で明けた。家計に厳しい年になりそうだ。利上げによる景気後退が見込まれる海外経済の動向も懸念され、円相場も動向次第では物価高を後押ししかねない。企業には500兆円超もの内部留保がある。今春闘での大幅賃上げの英断を経営者に求めたい。

 米中の対立激化、ウクライナ危機は自由貿易体制を揺るがし、貿易や金融は世界の至る所で分断され、エネルギー、穀物相場が荒れている。従来の標準だった効率性が後景に退き、軍事・安全保障の要素を色濃く反映した新たな経済活動が出現しつつある。こうした中で国益を確保しながら国際協調を探ることが求められている。内外の諸課題に官民挙げて最善を尽くさなければならない。

 政府は23年度の実質国内総生産(GDP)成長率をそれまでの1・1%から1・5%に上方修正し、金額も過去最高の558兆円を予想する。だがこれは賃上げが実現し消費が拡大することを見込んだ上での予測だ。楽観はできない。

 コロナ禍は最悪期を脱したとの見方もあるが感染自体は増加傾向が続いており、先行き不安が完全に払拭されたわけではない。新たな変異株の出現も排除できない上、中国の感染拡大も厳重に警戒しなければならない。状況によっては何らかの規制が必要になるかもしれないが経済活動との両立を担保することが欠かせない。回復しつつある経済を維持・発展させることが最優先課題だ。

 各種の行動制限などが解除され、外食や旅行、出張などが再び活発になっている。これが個人消費の拡大と結びつけば、地域経済は活性化し、人々の可処分所得も向上する好循環につながる。今、大事にしたいのは、この好循環だ。しかし昨年来続く物価高がそれを脅かしている。

 厚生労働省が6日発表した22年11月の物価上昇を加味した実質賃金は前年同月比3・8%減で8年6カ月ぶりの下落率になった。物価高に賃金が追いついていない状況が深刻さを増している。

 春闘で連合は定期昇給分を合わせて5%の賃上げを求め、政府も後押ししている。物価上昇分を吸収できる賃上げが実現すれば、物価高に対する一定の抵抗力になり、消費への影響は軽減される。そこにとどまらず、長年続いた低賃金の連鎖を打ち切る契機にできたらいい。内需を強め、海外景気に左右されにくい体質を目指したい。

 物価高は急激な円安による輸入価格の急上昇が拍車をかけた。この点で、少し安堵(あんど)できる要素を挙げるとすれば、為替相場が極端な円安基調から脱しつつあることだ。

 一時、1ドル=150円台まで下落したが、日銀の金融緩和修正もあって、落ち着きを取り戻しつつある。こうした傾向が定着すれば、原材料価格の上昇も緩和され企業にとってはコスト低減につながり、賃上げの原資も確保できる。

 だが日銀が金融緩和の修正に明確にかじを切ったとは言えない。4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁を継ぐ新総裁の人事は、日本経済にとって非常に重要になる。急激な政策変更は市場混乱をもたらしかねないが、緩和を推し進めた黒田路線の継承だけでは日本経済は浮揚しない。円滑な「出口戦略」を主導できる後継者を望む。