幼稚園や保育所に通っていない0~5歳児のいる家族の支援について、政府が具体策の検討を進めている。今年4月に創設されるこども家庭庁の「目玉政策」として、家庭訪問や困り事の把握、保育所での定期預かりの試行など本格的な対策づくりに乗り出す方針だ。
義務教育前の育児に関しては、親が家庭での養育を積極的に選ぶケースがある一方で、育児施設に通いたくても通えない子どもも多数いる。未就園の子は子育て支援団体などから「無園児」とも呼ばれる。地域で孤立し「縁がない」「支援がない」状況に陥る恐れがあるという意味だ。
周囲とのつながりがなければ親の育児負担が増え、虐待のリスクが高まるとされる。政府には必要なサポートを速やかに実行してもらいたい。
厚生労働省によると、保育所、幼稚園、認定こども園のいずれにも通っていない0~5歳児は国内に推計で約182万人(2019年度)。ただ、これには認可外保育施設などを利用するケースも含まれており、詳しい実態は不明だ。
子どもが死亡するなど重大な児童虐待は自治体による検証が法律で求められ、過去15年の報告は約300件に上り、0~5歳児の事案が大部分を占める。このうち新生児の遺棄を除く231件を共同通信が分析したところ、無園児が被害に遭ったとみられるケースが152件と6割を超え、約2割に当たる43件は未就園と虐待の関連性が指摘されていた。幼い命を取り巻く実情は極めて深刻である。
無園児になるのは経済的困窮のほか、子どもの障害を理由に受け入れを拒まれたり親が外国籍で入園手続きが分からなかったりするなど、多くの理由があるという。
希望しても受け入れがかなわない状態は、集団生活を通じ社会性を身につける機会を奪われているに等しいとも言えよう。核家族化が進むにつれ周りとの結びつきも薄れがちで、各家庭が抱える事情は見えにくい。こうした親子がどのような境遇にあるのか気がかりだ。
「親にとって、保育所は他の親とつながりをつくる起点になる」。虐待問題の専門家がそう指摘するように、地域の中で保育所や幼稚園は育児での孤立を防ぐ役割を担う存在である。現状では親の就労などが保育所の受け入れ要件だが、誰でも利用できるよう制度を改めるなど、柔軟かつ大胆な転換が求められる。
ただし、保育施設の現場にはいま、国民の厳しい目が向いていることも忘れてはいけない。静岡県裾野市の私立保育園で園児への陰湿な虐待が発覚、保育士3人が暴行容疑で逮捕されるなど育児のプロによる不適切な保育が各地で相次いでいる。
こうした事実は、無園児問題が「預け先を確保すれば解決」という単純な図式で描けないことを物語っている。支援にあたっては、対象にきめ細かい目配りをしたり、関係する多方面からの声に注意深く耳を傾けたりしながら実効性を高める必要がある。せっかくの取り組みを、かけ声倒れにしてはならない。
個人の価値観が多様化するにつれ家族のかたちもさまざまになり、親子関係は複雑化している。すくい上げた情報を児童相談所など関係機関で迅速に共有する連携強化も必須だ。悲劇を繰り返さないために、あらゆる知恵を絞りたい。