中国政府は新型コロナウイルス感染防止のため、国民の行動を厳しく制限する「ゼロコロナ」政策を正式に終了した。強制的なPCR検査や感染者の隔離、移動制限はなくなり、人々は国内外への旅行ができるようになった。
しかし、昨年暮れに規制緩和が始まって以来、中国の感染者は爆発的に増加し、日本や米欧などは中国からの入国者に対する水際対策を強化した。1月下旬の春節(旧正月)前後には、延べ約21億人が帰省のため中国国内を旅行すると予測されており、感染は一層広がりそうだ。
中国が3年間続けてきたゼロコロナを、国民の自由と権利を尊重する形で終えたことは歓迎したい。だが、「開国」でコロナを海外に広げてはならない。国内の感染拡大も適切な対策によって抑える必要がある。
中国政府が発表する死者数は連日1桁に過ぎず、世界保健機関(WHO)から過少報告と問題視された。中国は感染の実態や変異株の情報などを積極的に開示し、世界全体のコロナ対策に協力するべきだ。
2020年初め、湖北省武漢市から感染が広がって以来、習近平国家主席はゼロコロナを続けた。だが、国民の我慢は限界に達し、昨年11月には各地で抗議デモが起きて、看板政策を見直さざるを得なくなった。
新しい防疫対策はコロナの感染症分類を隔離などの強制措置が必要ないレベルに引き下げ、任意のワクチン接種やマスク着用、消毒、換気などで自らの健康を守るよう呼びかけた。海外からの入国者に義務付けてきた8日間の隔離もなくなった。
日本政府は中国からの感染者入国を食い止めるため水際対策を強化し、出発前72時間以内の陰性証明書の提示を義務化、入国時に抗原検査やPCR検査を行う。
これに対し中国外務省報道官は10日、日本と韓国でビザ(査証)手続き停止を通知したことに絡み、「中国への差別的な入国制限措置に断固反対し、対等の措置を取る」と述べ、各国の水際対策強化に反発した。
しかし、どこの国であれ、新しい変異株が入ってくれば、感染が急拡大する恐れがある。慎重な自衛措置は当然だ。また、中国での感染者急増と情報開示の不足が各国・地域の警戒の主因であり、WHO当局者も対策強化に理解を示した。
中国は海外への団体旅行の停止措置は撤廃しておらず、今のところ訪日客の急増はない。だが、今後は規制緩和に向かう流れにあり、日本政府は十分に注意したい。
感染急増の原因の一つとして、中国製ワクチンの効果が低い可能性も指摘されるが、中国政府は欧米製ワクチンを導入する考えはない。
当局はオミクロン株の感染者は軽症が多く、感染率が高まってピークを過ぎれば状況は安定するとして、国民に冷静な対応を呼びかけている。だが、既に医療は逼迫(ひっぱく)し、高齢者らが多数死亡している。ワクチン接種の徹底や医療、医薬品の確保は緊急を要する。
習氏は新年のあいさつで、コロナ拡大防止は「新段階に入った」「夜明けの光はすぐそこだ」と述べた。昨年の共産党大会を経て異例の党総書記3期目に入った習氏はゼロコロナ終了で、経済再建と国民の不満解消を目指す。しかし、安定した「ウィズコロナ」への道筋はまだ見えてこない。