納めた税金の使い道や生活に直結する問題は自分たちで決める、そのための代表者を選ぶ―。これが憲法が規定する国民主権で、選挙はかけがえのない機会である。
今年は4年に1度の統一地方選の年。4月には9道府県知事選、6政令市長選、41道府県議選、17政令市議選、200以上の市区町村長選、700近い市区町村議選が行われる。山陰両県でも知事選、県議選などがある。私たちが暮らす地域の課題を立ち止まって考える最も身近な選挙と言ってもいい。
ところが、国政、地方を含め、投票率の低下に歯止めがかからない。2019年の統一地方選では、知事選が47・72%、道府県議選44・02%など、有権者の半数以上が1票を投じないという「4割民主主義」が定着。とりわけ10代、20代の若い世代の不参加が目立つ。
加えて道府県議選や市長選(政令市を除く)の3割前後、町村長選の4割以上が無投票。「定数割れ」は8町村議会に上った。東京工業大の西田亮介准教授が8年前の統一地方選を「無音選挙」と呼んだ現象が一段と進行したのである。
最近の地方選で二つの対照的な光景が見られた。昨年暮れの宮崎県知事選は、現職と知名度が高い元知事の事実上の一騎打ちとなったことで投票率は4年前よりも22ポイント余りも上回った。一方、統一地方選の先行指標として注目された12月11日の茨城県議選の投票率はついに40%を割り込み、過去最低を更新。32選挙区のうち6選挙区12人が無投票当選だった。前者が教えているのは、有権者に選択肢を示すことの大切さ、後者は政治への無関心を物語る。
今回1票を行使する物差しはいくらでもある。3年間にわたる新型コロナウイルスとの闘いの最前線に立った自治体の対応、人口減少と少子高齢化の加速で地方が疲弊する中で子育て支援を含め地方を少しでも活性化する政策展開、大雨や大雪、地震などの防災・減災への評価。そして世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との「接点」を積極的に調査・公表したのか。じっくりと検証してみたい。
日本世論調査会が昨年11~12月の調査で、統一地方選の争点(二つ回答)を聞いたところ、「景気や物価、雇用」が63%でトップ。「医療や介護など社会保障」(33%)、「教育や子育て支援」(20%)と生活に密着した課題が続いた。
国と同様に地方自治体の財政も厳しい。首長はやりくりしながら、住民本位の行政を進めていく発想の柔軟さが求められ、議員はそれをチェックし、足らざるものがあれば、条例などをつくり迫っていく。「二元代表制」のそれぞれの役割だ。
民主主義を根付かせようと、戦後間もなく中学、高校で使用された文部省著作教科書「民主主義」には、こんな記述がある。「多数の有権者が自分たちの権利の上に眠るということは、単に民主政治を弱めるだけでなく、実にその生命を脅かすのである」
4割民主主義から脱却するには、有権者が地域の課題を自分ごととして捉える。政党は無投票を避けるために多様な選択肢を提供する。候補者はSNSなども駆使しながら、地域の未来図や具体的な処方箋を訴えていく。こうした有権者の自覚と、政党や候補者の地道な努力が不可欠だ。いま一度、国民主権の意味をかみしめたい。