短歌 安部歌子選

「月を見ろ」夫の呼ぶ声に見上ぐれば天王星に重なる一瞬     出 雲 児玉 幸子

 【評】「皆既食」と「天王星食」の重なる宇宙の営みを見上げる二人。夫の呼ぶ声もあたたかく作者の宇宙への畏怖の念を思わせる体言止めも効果的。

 

秋風と橋の真上で出逢ひけり帽子押さへて急いで渡る       益 田 能美 紀子

 【評】橋の上で突然吹いてきた突風を「秋風と出逢った」と表現したことでこの一首が立ち上がった。下句に突風と思わせる工夫がある。

 

鍬でなくシャベルで土を耕せり老いて一人の農は...