中国の偵察気球が飛来した問題について語るブリンケン米国務長官=3日、ワシントン(ゲッティ=共同)
中国の偵察気球が飛来した問題について語るブリンケン米国務長官=3日、ワシントン(ゲッティ=共同)

 米中関係が軍事的緊張に即座にエスカレートする危うさを印象付ける事態だ。両国は挑発とみられる行動を控え、対話のパイプをつくり、信頼を醸成するべきだ。

 バイデン米大統領の指示を受けて米軍戦闘機が4日、米本土上空を飛行した中国の気球を撃墜した。気球は秘密性の高い軍事基地など戦略拠点上空を飛んでおり、米軍の動向を監視・偵察する目的だったと断定した。

 一方、中国は気象研究用であり米国に迷い込んだと説明、撃墜に対して「強烈な不満と抗議」を表明し、対抗措置をとる可能性も示唆している。

 ブリンケン米国務長官は、習近平国家主席との会談も想定された訪中に出発する予定だったが、気球飛行を「明白な主権侵害と国際法違反だ」と述べて延期した。

 米中両国は昨年秋の首脳会談を経て関係安定化を模索、長官訪問はその一歩とみられたが、再び冷却化しそうだ。2001年に米偵察機が南シナ海上空で中国軍機と接触し中国・海南島に緊急着陸し、関係が悪化した事態を思い起こさせる。

 気球はアラスカ州アリューシャン列島上空に入りモンタナ州上空を飛行し、大西洋に出たところを米軍に撃墜された。本土上空で撃墜すると落下物で地上に被害が出るとの判断から撃墜が遅れたという。

 モンタナ州には核搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射施設があるなど、飛行路の下には戦略施設が存在する。偵察衛星よりも低い高度、遅い速度で飛ぶことで鮮明な像を入手し通信を傍受したと米国はみている。

 米国は中国が軍民融合戦略の下で先端技術などを活用していると判断しており、気象研究用との中国の説明を受け入れていない。米海軍が残骸を海中から回収する作業を続けているが、今後も米中の主張は平行線をたどりそうだ。

 米国も冷戦時代から旧ソ連圏などに偵察飛行を繰り返した。またここ数年中国からの飛行体の飛来が太平洋岸に何度かあったことを米政府は認めている。今回の騒動を受けてカナダや中南米でも中国の気球が飛来したことが確認された。

 ただ、米国では超党派で対中強硬姿勢が広がっており、気球に米国横断を許し、情報を奪われたことに、野党である共和党議員だけでなく、与党の民主党議員からも、米政権への批判が出ている。

 バイデン氏の撃墜命令やブリンケン氏の訪中延期は、こうした議会の反中意識を背景にしている。21年の世論調査では中国に否定的な見方をする米国人は5年前の47%から82%に急増した。中国はこうした米世論を読み間違えるべきでない。

 中国側も、米国で気球の飛行が大きく報じられると共産党系メディアは「米国の自作自演」と批判し、撃墜後は「米国に賠償要求を」といった憤りがネット上で相次いだ。

 ブリンケン氏の訪中延期発表後に、中国の外交トップの王毅党政治局員がブリンケン氏と電話会談し意思疎通の継続を訴えた。ブリンケン氏も条件が整えば訪中する意向を維持している。米中両国は引き続き関係改善の模索を続けてほしい。

 日本でも20年6月と21年9月にこの種の飛行物体が目撃されたが、その詳細は明らかになっていない。今後もこうした物体の飛行が予想される。対応措置などを詰めておくべきだ。