東京電力ホールディングスなど大手電力7社が家庭向け規制料金の値上げを経済産業省に申請、消費者に意見を聞く公聴会が始まった。ウクライナ危機などに伴う燃料価格高騰によるコスト増で約3~4割の値上げを求めている。認められれば、4月以降順次、月額で2千~3千円程度上がる見通しだ。
だが物価高に苦しむ家計のさらなる負担増は避けるべきだろう。各社の経営状況を勘案するのは当然だが、実質賃金の低迷、購買力の縮小が成長を阻んでいる日本経済全体を見渡し、値上げ幅は、できる限り圧縮したい。
原油や天然ガスなどの輸入価格の上昇によって、東電の2023年3月期連結純損益予想が3170億円の赤字(前期は56億円の黒字)に転落するなど、各社の財務基盤は悪化している。
しかし、電気は生活に欠かせない基礎的なインフラだ。コスト回収のために増えた分を、そのまま料金から吸収するわけにはいかないことは言うまでもないだろう。
物価高による負担軽減を図る国による約2割の電気料金抑制策は、1月使用分(2月検針分)から実施されるが、今回の値上げが認められれば、恩恵は帳消しとなり、家計への圧迫度は高まる。さらに国による支援は9月に縮小され、10月以降の対応はまだ決まっていない。
節電などによる家計防衛にも限界がある。値上げ幅によっては、冷暖房などを控えすぎて健康を害するケースも出てきかねない。こうした事態は招いてはならない。
国の審査はこれから本格化する。各社の経費削減や経営効率化に向けた努力は十分なのかどうか厳正な対応が求められる。財務や収支の現状や見通しもさることながら、今回は経営姿勢についても目を光らせたい。
中国電力などが事業者向けの電力販売で価格維持を図ったカルテル問題が発覚、独禁法違反の疑いが持たれている。さらに関西電力などの社員が、送配電子会社が持つ新電力の顧客情報を「盗み見」していた不正閲覧も明るみに出た。
電力自由化を骨抜きにするこうした不正営業で、市場をゆがめ不当な利益を得ていたとしたら、値上げ申請の根拠をゆるがすことになる。各社はこの問題についても詳しく説明し実効性のある再発防止策を打ち出さなければならない。
今回、値上げ申請を見送った関西、九州電力は原発が稼働し、電源構成に占める火力発電の比率が低い。その分、燃料価格の高騰の影響が低減された。一方、東電などは原発が停止し火力比率が高い状況だったため直撃を受けた。東電は柏崎刈羽原発(新潟県)での2基の再稼働を前提に計算し、申請値上げ幅を圧縮した。
しかし、料金値上げ回避を出発点にした原発推進論は短絡的と言わざるを得ない。政府は新増設や運転期間延長などを決めたが、ひとたび事故が起きれば、取り返しのつかない被害が発生することを私たちは経験している。
原発のコストは安全対策などから恒常的な上昇傾向にある。こうした問題を踏まえた国民的議論が不可欠だ。
脱炭素とエネルギー安定供給の両立という困難な課題に取り組む方策の柱は原発回帰ではなく、再生可能エネルギーの拡大であることを確認したい。