入管難民法改正案などについて反対の声を上げながら名古屋市内を行進するデモ参加者=23日午後
入管難民法改正案などについて反対の声を上げながら名古屋市内を行進するデモ参加者=23日午後

 政府は、2021年に廃案となった入管難民法改正案を今国会に再提出する方針を固めた。難民認定申請中は不法滞在したり、事件を起こしたりして在留資格のない外国人を本国に強制送還する手続きを停止するという現行の規定を見直し、申請による送還停止を原則2回までに制限する。3回目以降は、相当の理由がない限り認めない。

 送還逃れに制度が乱用され、収容の長期化につながっているためとしている。一方で、逃亡の恐れなどがなければ原則として入管施設に収容せず、収容中も3カ月ごとに継続の可否を見極めるなど、2年前に当初案を巡る与野党の修正協議でいったん大筋合意した内容の一部を取り入れた。

 とはいえ、強制送還を妨害した場合の罰則を懲役1年から6月に引き下げたり、上限が定められていない入管施設への収容期間を6カ月以内としたりする合意内容は、今回の改正案に反映されなかったという。修正協議は最終的に決裂したが、協議前の当初案とほとんど変わらない中身に、野党や外国人支援団体などは反発を強めている。

 近年、入管行政を巡っては内外で、収容中の人権問題や受け入れより送還を重んじる対応に批判が噴出。本来は難民として保護されるべき外国人が保護されていないのではないかという懸念も拭えない。抜本的な改革につなげるため、活発な国会論戦が求められる。

 出入国在留管理庁によると、外国人の非正規滞在者は22年7月時点で約5万8千人。摘発されて強制退去処分を受けるなどすると、大半は自主的に帰国するが、一部は退去を拒否。21年12月末時点で3224人に上り、半数の1629人が難民認定申請中だった。

 本国に帰ると、人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害される恐れがあるとの主張が認められれば、難民として保護される。ただ日本の難民認定率は1%に満たず、諸外国に比べて桁違いに低い。繰り返し申請を退けられ、裁判で争った末に認定された人もいる。

 誤って送還すれば、生命にも関わる。21年4月、国際的な難民保護を進める国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は当時の当初案でも柱だった送還停止の回数制限について「難民条約で送還が禁止される国への送還の可能性を高め、望ましくない」と指摘した。

 また、その前月、名古屋出入国在留管理局で収容中のスリランカ人女性が死亡。5カ月後に調査報告書がまとまり、当時の法相は記者会見で「送還することに過度にとらわれるあまり、収容施設として人を扱っているという意識がおろそかになっていた」と述べた。

 そうした批判や反省を踏まえてもなお強制送還の徹底にこだわり、当初案の骨組みを維持して改正案を再提出しようとすることに疑問を禁じ得ない。その前に取り組むべき課題は多い。

 専門家からは▽難民認定を担当する独立行政機関を創設し、法務省・入管庁から業務を移管▽難民申請者の事情聴取に弁護士を立ち会わせる▽身柄を拘束する収容について裁判所がチェック―などが提案されている。

 いずれも、出入国の管理や支援・保護を安定させるためには欠かせないだろう。まず、これらを丁寧に議論し、手続きの透明性・公正さと人権尊重を担保する仕組みを整えることを考えたい。