内閣支持率が30%台前半に急落したのはなぜか―。その原因に対する反省がなければ、国民の信頼を得るのは難しいと言わざるを得ない。
岸田文雄首相(自民党総裁)は26日の自民党大会で、2012年末の政権奪還から約10年間の成果を強調し「次の10年をつくる新たな一歩を踏み出す」と表明。4月の統一地方選と衆参5選挙区で実施される見通しの補欠選挙に向け「一丸となって勝ち抜こう」と結束を呼びかけた。
だが支持率急落の一因となった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係や昨年相次いだ閣僚の辞任にはひと言も触れず、物価高や少子化対策でも新味のある政策は示さなかった。
首相は「おごりを捨て、虚心坦懐(たんかい)に徹底的に国民の声に向き合う」と述べた。では、なぜ旧統一教会問題に触れないのか。統一地方選で審判を受ける自民党の地方議員こそ旧統一教会との深い関係が指摘される。大会では、茂木敏充幹事長が「活動の社会的相当性が懸念される組織・団体との関係を遮断するという党のガバナンス・コード(統治原則)の周知徹底に協力をお願いする」と述べただけだ。
首相は「改めて『政治は国民のもの』という立党の精神に立ち返る」と強調した。ならば、国民に対し、反省の姿勢を真摯(しんし)に示すべきだろう。
首相の発言で目立ったのは、自らの支持基盤を固めようという意図だ。演説では「この1年間で失ったものの大きさを実感する」と切り出し、安倍晋三元首相の銃撃事件を挙げて「安倍元首相の強力なリーダーシップの下、大きく国を前進させた」と強調した。菅義偉前首相時代も合わせて「前進の10年」と評価したのは党内の保守層を意識したものだろう。
しかし、本当に失ったのは国民の信頼ではないか。昨年3月の党大会時点では共同通信調査で60%を超えていた内閣支持率は今年2月調査では33・6%まで下落。自民党の支持率も40%台後半から10ポイント近く落ちた。
一方、大会で採択した2023年運動方針は立憲民主党や国民民主党の支持団体である連合や友好的労組との「連携強化」を明記した。支持基盤を広げ、野党分断を図る狙いだろう。ただ、国民民主は23年度予算案に反対する方針を決定。戦略の見直しを迫られる。
運動方針はウクライナ侵攻や原油高・物価高騰を挙げて「わが国は戦後最大級の難局に直面」していると指摘、防衛力の抜本的強化などを政権の成果として強調した。
しかし、個別政策の具体策は乏しい。首相は「政労使が共通の認識を持ち、構造的な賃上げを実現する」と述べたが、民間の賃上げは労使の交渉で決まるものだ。少子化対策は「次元の異なる子ども・子育て政策を実現し、社会全体の意識を変える」と強調したものの、具体策や予算措置には触れなかった。首相秘書官の差別発言で焦点に浮上したLGBT理解増進法案への言及もなかった。
一方、憲法改正に関しては「時代は早期改正を求めている」と強調。「野党の力も借りながら国会の場での議論を一層積極的に行う」と述べた。これも保守層の支持を得る狙いとみられる。しかし、世論調査で政策の優先順位を聞くと改憲の順位は低い。これこそ国民の声に謙虚に耳を傾けるべきではないか。