6日、ソウルの韓国外務省で元徴用工訴訟問題の解決策を発表する朴振外相(中央)(聯合=共同)
6日、ソウルの韓国外務省で元徴用工訴訟問題の解決策を発表する朴振外相(中央)(聯合=共同)

 日韓間で最大の懸案となっている元徴用工問題について、韓国政府が解決策を正式発表した。日本政府も過去の政府談話などの継承や日本企業の自発的な寄付金拠出を認める考えを表明し、懸案の解決に向けて大きく動き出したことになる。日本政府は関係改善に向けた韓国政府の姿勢を積極的に評価し、対韓輸出規制解除や首脳の相互往来再開を急ぐべきだ。

 元徴用工問題は、2018年に韓国最高裁が日本企業に賠償金の支払いを命じたことに対し、1965年の日韓請求権協定で解決済みだと日本政府が反発したことから深刻化した。2019年には日本が事実上の対抗措置として半導体材料の対韓輸出規制を発動し、韓国内で日本製品の不買運動が起きるなど、日韓関係は「過去最悪」と言われる状態に陥った。

 解決策では、賠償金の支払いを韓国政府傘下の財団が肩代わりし、その費用は韓国企業による寄付金を充てる。請求権協定と矛盾せずに、日本政府の立場を踏まえた上での現実的な方策だ。

 日本政府は、関係改善について「ボールは韓国側にある」との姿勢をとってきた。だが、今回の解決策発表を受けて、林芳正外相は「歴史問題に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認する」と述べ、過去の植民地支配について「痛切な反省と心からのおわび」を表明した1998年の日韓共同宣言の継承を明言した。

 昨年5月に発足した韓国の尹(ユン)錫悦(ソンニョル)政権が、一貫して関係改善に前向きな姿勢をとり続けてきたことが、日本側の変化を促したと言える。今月1日にソウルで行われた「三・一独立運動」の記念式典で演説した尹大統領は、日本を「われわれと普遍的価値を共有し、安全保障や経済で協力するパートナー」としている。

 尹氏は、韓国内では批判のある日本の防衛力強化にも理解を示している。北朝鮮の脅威が続き、国際情勢が厳しさを増す中で、日韓の連携は極めて重要な役割を担う。そうした認識の下で、尹政権は元徴用工問題の解決に取り組んできた。韓国では来年4月に総選挙があり、政治問題として過熱する前に解決を図りたいとの思惑ものぞく。

 だが、解決策に対して元徴用工や遺族の中には反発もあり、韓国内の世論も賛否が分かれている。最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表は、日本政府の新たな謝罪や賠償がない解決策は「被害者を侮辱している」とし、尹政権の対日外交政策に批判のトーンを強めている。

 懸念されるのは、解決策が韓国内で政治的対立の渦中に置かれ、広範な世論の支持を得られなくなることだ。2015年に日韓が合意した慰安婦問題の解決策は、韓国内で反対の世論が高まって空文化し、日本側に根深い不信感を植え付けることとなってしまった。

 僅差で大統領選に勝利した尹氏は、国会では少数与党として厳しい政権運営に迫られており、野党の批判が長期化すれば総選挙の結果にも影響が及んでくる。そうした「内政の論理」によって問題解決の機運が低下すれば、日韓関係はさらに打開が困難になる。

 日本政府も、関係改善に積極的な姿勢を前面に打ち出し、韓国の国民世論を納得させるための努力を、韓国政府と協力して行っていくことが求められている。