指令破壊信号が送られたH3ロケット1号機について説明するJAXAの関係者=7日午前10時54分、鹿児島県の種子島宇宙センター
指令破壊信号が送られたH3ロケット1号機について説明するJAXAの関係者=7日午前10時54分、鹿児島県の種子島宇宙センター

 日本の新型主力ロケットH3の1号機が打ち上げに失敗した。遅れていた開発スケジュールがさらに延びることになり、火星探査や衛星打ち上げビジネスへの参入を目指す日本にとって大きな痛手だ。徹底した原因究明を求めたい。

 H3は、2001年に登場したH2Aの後継機として宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した使い捨ての2段式液体燃料ロケットだ。衛星打ち上げ能力を高め、打ち上げ費用を従来の半分の約50億円とする目標を掲げる。

 当初の計画では20年度に試験機として1号機を打ち上げるはずだった。しかし、1段目の主エンジン「LE9」の燃焼室の内側に穴が開いたり、燃焼室に液体水素を送るポンプの羽根に亀裂ができたりと不具合が相次ぐ。その対策に時間を取られ、スケジュールが延び延びになっていた。

 満を持して臨んだ2月17日の打ち上げは、思わぬトラブルで中止となる。LE9には着火したものの、それに続いて固体ロケットブースターを点火させるはずの電気信号が出ず、LE9が自動停止してしまった。

 JAXAによると、ロケット内部の電池からエンジンを制御する装置への電力供給が数秒間途絶えたのが原因で、ロケットと地上設備をつなぐ電気系統を遮断する際に発生した電気的な雑音による誤作動とみられる。

 ぎりぎりまで電源や通信の電気系統を確保しておいて一気に遮断するという設計が引き起こした現象で、再発を防ぐため、一定の時間差を置いて次々と遮断することにより電気的な雑音を抑える対策を取ったという。

 同じようなトラブルがかつて日本のロケット開発で起きたことがある。東京大のグループが1976年に打ち上げ、予定の高度に達せず太平洋に落ちたM3Cロケット3号機で、打ち上げ時に発生した電気的な雑音がロケット制御の誤作動を引き起こしたのだ。

 この時の教訓は、ロケットを構成する部分的なシステムのそれぞれが完全であっても、それらを統合した時に何が起こるかを事前に十分チェックすべきだということだった。こうした経験の積み重ねは今の技術陣に受け継がれているだろうか。

 7日の打ち上げでは鹿児島県の種子島宇宙センターから無事飛び立った。ところが発射から5分過ぎに予定していた2段目のエンジン着火が起こらず、JAXAは予定の高度675キロに達しないと判断し、地上からの指令で機体を破壊した。

 搭載する地球観測衛星だいち3号も失われた。信頼性が確立していない試験機に重要な衛星を載せるべきではなかった。

 1号機の開発費は2千億円余り。対策次第でさらに費用がかさむ。2024年度に予定される火星探査機の打ち上げへの影響も懸念される。

 だが、ここは落ち着いて原因究明に取り組んでもらいたい。打ち上げビジネスの価格競争は非常に厳しい情勢にあり、日本が競争を勝ち抜くには、実績を積み信頼性を高めるほかないのだ。

 原因究明では技術的な問題だけでなく、その問題につながる背景要因もよく調べるべきだ。昨年、JAXAの宇宙医学研究でデータ捏造(ねつぞう)などが発覚した問題では、研究全体がずさんでJAXAの組織的責任が問われた。失敗から学ばずに前進することはできない。