米国での銀行の連鎖破綻をきっかけに世界の金融・株式市場で信用不安が拡大し、スイス金融大手の経営が揺らぐ事態となった。市場参加者をはじめ、預金者や取引先の動揺が収まらなければさらなる破綻を招き、金融危機に陥る可能性がある。各政府と金融当局は信用不安の早期沈静化に万全を期すべきだ。日本も影響に警戒を強めたい。
市場動揺の発火点は新興IT企業を事業基盤とする米西部カリフォルニア州の中堅、シリコンバレー銀行(SVB)の予期せぬ破綻だ。昨年末の総資産は2090億ドル(約28兆2千億円)に上り、米銀で史上2番目、リーマン・ショック後では最大の破綻となった。
直後には、ニューヨーク州が拠点で全米29位の資産規模を持つシグネチャー銀行も行き詰まった。同行は暗号資産(仮想通貨)関連の取引が多く、SVB破綻による信用不安で預金が流出したとみられている。
市場の動揺を受け、米財務省や連邦準備制度理事会(FRB)などの関係当局は、預金の全額保護と金融機関の資金繰りを助ける仕組みの導入を公表。バイデン大統領が急きょ演説し「米国の銀行システムは安全であると保証する」と強調した。
米国の預金保護の上限は口座当たり25万ドル(約3400万円)。これでは保護対象の預金が限られる恐れがあったため、特例的な対応を決めたとみられる。富裕な高額預金者の救済につながるが、信用不安の拡大阻止とスピードを重視した政治的判断であり、やむを得なかったと言えよう。
だが市場の不安は依然ぬぐえていない。経営再建中のスイス金融大手、クレディ・スイスは財務基盤を問題視され株価が急落。中央銀行が最大500億スイスフラン(約7兆1千億円)の資金支援を用意する事態に陥った。
米国で「次の標的」になっていた中堅銀に大手金融機関11社が支援策をまとめたように、不安払拭へ追加策を急ぎたい。
厄介なのは震源地の米国や欧州で、金融緩和とその後の利上げを通じて、企業や金融機関にどの程度リスクが蓄積しているか見通しにくい点だ。
SVBでは、新型コロナウイルス禍と金融緩和がネット企業の業績を押し上げ、同行の預金が増大。その後、景況悪化でIT企業からの預金が流出する一方、インフレ退治の大幅利上げで保有債券に損失が膨らんだ。類似の問題は他行にも潜んでいる可能性がある。
米欧中銀が続ける金融引き締めの行方にも注意が必要だ。欧州中央銀行(ECB)は16日に追加利上げを決めたが、金融システムの安定に比重を置き利上げに慎重となれば、インフレが収束せず、米欧経済の足を引っ張る恐れがあるためだ。
リーマン・ショックを受けて米国では、金融危機の再発防止へ銀行に対する監督規制が強化された。だがトランプ政権時の2018年、中小銀行では規制が緩和され、それが当局によるリスク把握の遅れにつながったと指摘される。監督の在り方の検証が不可欠だろう。
日本は今回の事態を警鐘と捉えるべきだ。国内の超低金利で地方銀行などは運用益を求めて米国債に投資してきたが、FRBの利上げで多額の損失が生じている。「総じて充実した流動性、資本基盤を維持している」(鈴木俊一金融担当相)のは確かだが、盲点がないか精査してもらいたい。