島根県庁と知事選のポスター掲示板=松江市殿町
島根県庁と知事選のポスター掲示板=松江市殿町

 4年に1度の統一地方選が島根、鳥取両県を含む9道府県知事選の告示で幕を開けた。ここ4年間の地方自治の現場で知事をはじめとしたリーダーは、新型コロナウイルス感染拡大への対応に終始した。あらためて地方創生へ向けた立候補者の「再出発」の決意を聞き、18、19歳を含む有権者が地方政治に参加する貴重な機会としたい。

 山陰両県の知事選はともに現職に対して共産党公認などの新人が挑む構図となった。特に島根県知事選は、前回の2019年に県政最大勢力の自民党県連が分裂し、激戦となった状況が一変。前哨戦に目立った動きはなく、07年以来12年ぶりに60%台に回復した投票率の低下が懸念される。

 一方で、ロシアのウクライナ侵攻などを要因とした物価高への対応や、20代を中心にした若年層の雇用の場確保など、暮らしの安心と活力のバランスが取れた地域の維持に向け、今ほど政治が大切な時期はない。立候補者から、中長期の地域経営について具体的な展望や目標を聞きたい。個々の得票率だけでなく、政治への関心の指標と言える投票率の向上にも強く意識を向けてほしい。有権者の無関心から、地域の活力は生まれない。

 安心と活力といった視点で山陰両県へ目を向けると、安心については、医療・福祉サービスの維持、子どもが育てられる環境の充実がまず挙げられる。

 山陰両県で人口が最も多い層となっている団塊世代(1947~49年生まれ)は順次、75歳以上のいわゆる後期高齢者のゾーンに入っている。病床を削減し、増え続ける医療費を抑えたいという国の意向も踏まえながら、在宅医療と介護サービスを組み合わせ、高齢者らの生活の質を維持する地域包括ケアの確立が急務だ。

 子育てについては、両県ともこれまで「先進県」を自負してきた。確かに、都道府県別の合計特殊出生率(2021年)は島根1・62、鳥取1・51で全国上位にある。両県のような共働きの割合が高い地域で子育て先進県を実感するためには、働きながら子どもを預けられる保育所や放課後児童クラブの充実はもとより、公立中学校での休日部活動の地域移行に伴う保護者の負担軽減など解決、前進させるべき課題が横たわっている。

 活力については、教育、産業界の連携を促し、15~64歳の労働力人口の減少を緩やかにするか、できるなら歯止めをかけたい。これから重要度が増す1次産業だけではなく、製造業や観光など、両県が特に力を入れてきた分野で、将来の担い手をどう確保し、プロ人材を育成していくか、立候補者にぜひ語ってほしい。

 投票できる年齢が18歳に引き下げられてから、2度目となる統一地方選。19年の両県知事選での18、19歳投票率は、島根が37・23%、鳥取が34・76%にとどまっており、全世代に比べてまだ著しく低い。

 若年層に対して、動画やSNS(交流サイト)など政策を訴えられる手段は多様化、かつ進化している。SNSのフォロワーが必ずしも票につながるとは限らないが、候補者の人となりを知ってもらうだけでなく、選挙、政治への関心を高めてもらう有効なツールであることは間違いない。将来を故郷の山陰で暮らすかどうか考えている世代へ訴えが浸透し、投票率が上がることを期待したい。