いま中国で何が起きているのか?
日本にない思想 軍事想定

 山陰中央新報社の石見政経懇話会、石西政経懇話会の定例会が18、19日、浜田、益田各市であり、神田外語大教授の興梠一郎氏(63)が「いま中国で何が起きているのか?」と題して講演した。習近平体制で対中関係は経済と安全保障が絡み合って複雑化し、局面が大きく変化していると解説した。要旨を紹介する。

 中国が語られるとき、今は9割が安全保障についてだ。かつては経済が中心だった。2012年に習政権が誕生する前の日中関係で軍事問題が議論されることはほとんどなかった。米トランプ政権が中国を警戒し、台湾問題もクローズアップされるようになった。

 北京でアステラス製薬の現地法人幹部が中国当局に拘束されたのは大きな問題だ。習政権で反スパイ法が施行されて以降、拘束が相次いでいる。危ない国に社員を送り込んでいる、企業の責任が問われかねない。

 林芳正外相が訪中し、早期解放を求めた会談の場では、米国が主導する半導体製造装置の対中輸出規制が持ち出された。問題の根底には米中関係があると考えていいだろう。日本人駐在員がその犠牲になっている。日本は中国から何もできない国と見なされていることに気付かなければならない。

 そもそも米バイデン政権は本気で中国と対立するつもりはない。ハイテク覇権を巡る分断が強調されるが、22年の米中貿易額は過去最高だった。それだけ経済は密接な関係にある。米国は何より自国の利益を優先する。

 日本企業も中国から撤退できなくなっている。ライバル国の企業が得することになるからだ。中国はそういう外交をしている。

 中国も米国も有事を想定した思想がある。日本にはない。足りないのは経済力でも技術力でもない、軍事力だ。日本人はそれを言いたくないし聞きたくないが、現実を認識しなければならない。

(吉田雅史)