現在80歳のバイデン米大統領が再選を目指して、2024年に行われる大統領選への出馬を表明した。動画声明では「(4年前に始めた)闘いを終わらせる」と説明した。
野党共和党からはトランプ前大統領が復帰に向けて既に出馬を表明しているが、バイデン氏は、トランプ氏らが米国の最高の価値である自由を奪う、と指摘して危機感をあらわにした。
高齢のために再選断念の臆測も流れたが、トランプ氏が共和党の指名を獲得するとみて、再選出馬を決めたようだ。因縁の戦いの再現であり、米国の分断はさらに深まりそうだ。
バイデン氏の課題は高齢であることだ。既に史上最高齢の大統領であり、再選されれば2期目に就任する時は82歳、2期を全うして退任する際には86歳となる。高齢に伴う不安について聞かれるたびに、大統領の任務を毎日こなす体力を持つと強調している。活躍するシニア像を体現する挑戦に勇気づけられる人も多いだろう。
だが、発声や歩行が弱々しく感じられるのも否定できない。政治家の名前など基本的な事実の言い間違いもたびたびある。40代で就任したオバマ、クリントン、ケネディらかつての大統領が発した革新性やエネルギッシュな魅力とは正反対だ。
現職であるバイデン氏に挑戦する有力政治家は与党民主党からは現れそうにない。トランプ氏も現在76歳であり、共和党の指名を獲得すれば、大統領選は20年に続いてシニア同士の対決となる。
バイデン氏の業績は成功と失敗が混在する。21年8月の拙速なアフガニスタン撤退では、外国人やアフガン人の国外退去で混乱し、政権を奪還したイスラム主義組織タリバンは女性の教育・就労の権利を奪った。米国の対外政策の身勝手さが明白になり、信頼感を喪失した。
ウクライナ戦争でも、米軍の派遣を侵攻前から否定するなどし、プーチン・ロシア大統領を抑止できずに、弱腰批判を浴びた。その後、北大西洋条約機構(NATO)や先進7カ国(G7)を結束させウクライナ軍を支援するものの、ロシア軍撤退は見通せない。
唯一の競争相手とする中国には、半導体制裁や台湾への外交・軍事支援などで攻勢をかけるが、軍事的緊張にエスカレートさせないための建設的対話には至っていない。
内政では新型コロナウイルス対策やインフレ対策、インフラ再建、脱炭素推進、半導体技術育成などの大型法案を成立させた。短期間で十分業績を上げたとも指摘される。
支持率は40%台で推移するが、昨年の中間選挙ではバイデン民主党は予想を超えて善戦した。だが、最大の使命である米国分断の修復は進んでいない。主な原因はトランプ氏と支持者らがバイデン政権や共和党穏健派を激しく攻撃するためだが、民主党左派も保守派の対話を徹底的に拒み、対決をあおっている。
トランプ氏は不倫相手に払った口止め料に関して起訴されており、21年1月に起きた議会襲撃事件などでも今後起訴されるとの見通しが出ている。トランプ氏は民主党側の政治捜査だと反発している。バイデン氏の出馬表明で激しい対決の季節に突入することになる。
日本は米国の選挙戦に左右されることなく、国益をしっかりと見据えて米国に主張したい。