普段、あまり意識しないが、日本国憲法は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)や、個人の幸福追求権を保障する。

 松江市美保関町の海辺の集落で暮らす、ある夫婦の幸福と安心を見つめると、憲法に行き着く。

▼空気運んでいる

 山の木々が一斉に芽吹き柔らかな黄緑色に染まった4月下旬。美保関町内を走る市のコミュニティーバスに、元船大工寺本喜三さん(87)と、妻広子さん(81)が乗り込んだ。始発は自宅がある諸喰(もろくい)の法田(ほうだ)地区。島根半島北東部に位置し日本海に面する。

 バスは松江市美保関支所行きで、夫婦の降車地は自宅から5キロ離れた同町森山の内科医院。途中、峠を越える。喜三さんは普通車免許がなく、広子さんも後期高齢者の75歳を迎えた時に返納した。月数回の外出にバスは欠かせない。

 過疎地のバスは乗客が少なく、よく「空気を運んでいる」とやゆされる。夫婦が乗るのもそんなバスで、ほか数人の客を乗せると野花にあふれる山道を勢いよく走り出した。

 喜三さんの内科の診察終了後、次に夫婦は別路線のコミュニティーバスで境水道を挟み対岸の境港市へ向かう。そこで喜三さんが別の病院にかかっている間、広子さんは買い物をする。運賃は乗車1回200円。

 行程は午前9時3分に法田を出て内科医院前に12分後に着。1時間以内に診療を終え境港市滞在も1、2時間で済まさないと、午後1時6分に法田に戻る便に乗り遅れる。毎回忙しい。

▼えらい不便な所

 松江市中心部から車で約40分の法田地区は、...