各地の行事で、密となる最たるものが綱引きだ▼コロナ禍に見舞われたこの3年間、スポーツ競技としての綱引き選手権、文化財に指定された伝統行事から学校の体育祭に至るまで、多くが中止を余儀なくされた。鳥取県三朝町の温泉街で、5月4日に繰り広げられる重要無形民俗文化財「三朝のジンショ」もその一つ。先日、晴れて4年ぶりの開催となった▼さまざまな太さのフジカズラを前日の3日に編み上げ、全長約80メートル、胴回り約1・5メートルの「綱」を2本作る。翌4日の夜、東西から引き手がそれぞれ綱を地面に打ち付けながら、会場のメインストリートに入場。輪っかになった先端を高々と持ち上げ、結合しようとするが、重さは合わせて約4トンあり1回、2回と仕切り直す。ようやく合体し、「カセギ」と呼ばれる棒が差し込まれると、盛り上がりは最高潮に達した▼詳細を知らずに来ていた観光客が、綱引きに参加できると知って喜ぶ姿も。当方も目の前にあった綱を手にした。東方が勝てば豊作、西方ならば商売繁盛と伝えられる勝負は、西方が勝利した。その勝ち負け以上に、東西の引き手が呼吸を合わせて、綱を一本にする所作が印象的だった▼「青春ってすごく密なので」と言った高校野球・仙台育英高校の須江航監督の言葉を思い出した。コロナ対策で油断はできないが、「密」のパワー、心地よさをしばらくは感じていたい。(万)