マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」への情報誤登録が全国で約7300件あり、5件では別人の医療情報が閲覧されていたことが分かった。マイナカードを使った各種証明書のコンビニ交付サービスでも、別人の住民票の写しや抹消したはずの印鑑登録の証明書が誤交付されるトラブルが発生。マイナンバーに公金受取口座をひも付けする手続きを自治体職員が支援した際、誤って他人の口座を登録するミスも複数確認された。
その中、現行の保険証を2024年秋にも廃止してマイナ保険証に一本化する法律が今国会で成立する見通しだ。マイナ保険証を持たない人は「資格確認書」で代用できるが、カード取得の事実上の義務化とも言える。制度の信頼性が揺らぐ中での一本化には不安を覚える。
政府は従来「マイナカードのICチップにはプライバシー性の高い情報は入っていない。特定健診情報や薬剤情報も入らない」などを根拠に情報セキュリティーの強固さを強調してきた。しかし人為的ミスにより、他人に知らせてはいけない個人情報の筆頭格の医療情報まであっけなく漏れた事実は重大だ。
行政サービスの効率化や迅速化、使う側の利便性の観点から、マイナカードには利点が多いことも確かだろう。ただ、国民の取得申請率が約80%まで上がってきたカードをさらに拡大させるには、国民の個人情報がきちんと守られるという信頼感が前提になることを政府は再確認すべきだ。
しかも今回判明したトラブルではデジタル庁、厚生労働省、総務省などが、問題に気付いた相談者を「たらい回し」にし、互いに責任転嫁に近い対応をしていたことも露呈。マイナ保険証の誤登録は、本格運用が始まった直後の21年10月から起きていたが、最近まで、公表して国民に注意喚起することもなかった。
マイナカードは行政サービスを「ワンストップ」で利用可能にするのが主目的の一つだ。デジタル庁は、政府のデジタルトランスフォーメーション(DX)の司令塔として誕生した。個人情報漏れが疑われるケースに統制の取れた即応態勢が取れないようでは、いずれも存在意義が疑われる。
一方、今回のトラブルには民間が絡んでいた。マイナ保険証の件は、情報登録を担当した健康保険組合などが手作業により誤ったマイナンバーを入力したのが原因とされる。コンビニ交付の方は、不具合があった運用システムの提供企業に政府が徹底点検を要請した。ただ「(不具合は)マイナカードの本人確認システムとは異なる」(松本剛明総務相)などと説明する政府は当事者意識が薄くないか。民間や自治体の作業のチェック態勢を含め、制度運用に責任を負うべきは政府だ。
マイナ保険証は、過去に受けた診療や薬の処方歴などを医師や薬剤師らが患者の同意を得て閲覧することができる。介護施設にいる高齢者の保険証管理など課題はなお多いが、安全な運用ができれば、無駄な検査や処方を防いで医療の質向上、医療財政の健全化につながることも期待できる。
政府はマイナンバーを使う行政事務を拡大し、24年度末までには運転免許証もマイナカードに一体化させる方針だ。情報管理の責任が一層高まることを肝に銘じてほしい。