原爆慰霊碑への献花を終えた岸田首相(右)とウクライナのゼレンスキー大統領=21日、広島市の平和記念公園(AP=共同)
原爆慰霊碑への献花を終えた岸田首相(右)とウクライナのゼレンスキー大統領=21日、広島市の平和記念公園(AP=共同)

 ウクライナのゼレンスキー大統領は先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に対面で出席した。その行動力が、ロシアの侵略を終わらせるためG7の長期的な支援と結束を促した。ロシアと良好な関係を維持するインドのモディ首相、グローバルサウスを代表するインドネシアのジョコ大統領とも会談し和平を直接訴えた意義も大きい。

 ウクライナの厳しい戦況を踏まえれば、最高指導者が遠いアジアまで赴く選択には、重大な決断が伴ったに違いない。それに見合う成果につなげるためにもG7は軍事支援だけでなく、外交努力によってロシアのプーチン大統領を交渉の席に着かせるなど、戦争終結の道を探るべきだ。

 米国はゼレンスキー氏の訪日に合わせて、欧州の同盟国が保有する米国製F16の供与に同意する方針を明らかにした。ウクライナはF16の供与を切望してきたが、バイデン政権はこれまで、ロシアを刺激する懸念から極めて慎重だった。

 ロシア軍の航空戦力は地上戦力と異なり、ほぼ無傷で残っており、ウクライナの制空権を脅かす致命的な脅威となりかねない。米国は戦争の長期化を見据え、軍事支援の在り方を見直す決断をした。

 バイデン大統領はゼレンスキー氏との会談で「私たちは、どこにも行かないと約束する」と述べた。支援疲れに対する懸念を打ち消し、G7がウクライナを支え続けるという約束にほかならない。その象徴がF16の供与と言えよう。とはいえ、この決定が戦闘の激化と拡大をもたらしてしまっては元も子もない。

 ロシアの侵略は断じて容認できないが、ウクライナ国民やロシア兵の命を奪い続ける惨状に終止符を打つ決断は、プーチン氏にしかできない。

 最終的な和平を実現するためには、ロシアに強い影響力を持つ中国やインドの協力は不可欠である。広島でゼレンスキー氏と会談したインドのモディ首相はロシアの侵略について「単なる経済や政治の問題ではない。私にとっては、人道の問題だ」と述べた。

 インドや中国によるロシア産原油の大量輸入は、G7や欧州連合(EU)による制裁の効果を減じている。だが、それゆえに中印がロシアに影響力を行使できると考えることもできる。

 モディ氏が発した「人道の問題」という言葉には、経済の利害関係を超えて、侵略は悪であるという価値判断がにじんでいる。ゼレンスキー氏が遠い広島まで自ら足を運んだからこそ、引き出せた発言だろう。

 軍事支援と外交努力は車の両輪である。ゼレンスキー氏が今回、G7首脳やグローバルサウス首脳と直接語り合ったことは、戦争終結への道筋を示す行為でもあった。

 舞台が被爆地の広島であったことも、核兵器の使用をちらつかせるプーチン氏に明確なメッセージを突きつけた。

 ゼレンスキー氏は原爆資料館を見学、爆心地の惨状と祖国の光景を重ね「人類の歴史から戦争をなくさなければならない」と述べた。多くの人命が今この時も奪われている国から来た人物の言葉だ。単なる理想論と片付けるべきではない。

 核廃絶の声も広島、長崎から発信されれば一層の切実度を帯びる。核兵器も戦争も人間性の否定である。そのメッセージがプーチン氏に届いただろうか。