ヒロシマは78年前、原子力爆弾に焼き尽くされた。今なお深い悲しみを抱え平和を希求する祈りの街だ。戦争被爆地で初めて開かれた先進7カ国(G7)首脳会議を、今起きている戦争を終結させ、戦争のない世界、安定的な国際秩序の再構築に向けた一歩としなければならない。
G7広島サミットは3日間の討議を終えた。首脳声明は「法の支配に基づく国際秩序を堅持」するため、いわゆるグローバルサウスと称される新興・途上国との連携の強化を表明。「核のない世界」という究極の目標に向けて「現実的で実践的な責任あるアプローチをとる」と明記した。
サミットでは、核保有国である米英仏やインドの首脳が原爆資料館を訪問。ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領も訪日参加し、首脳声明はロシアの侵攻を「最も強い言葉で非難する」と強調。ウクライナ情勢に関する個別声明ではロシアの即時・無条件撤退を求めた。
別途公表した核軍縮に関する「広島ビジョン」は、核兵器を二度と使わないことや、核兵器数の削減を打ち出した。核兵器使用の威嚇を繰り返すプーチン・ロシア大統領の脅威に直面するウクライナ大統領が参加し、「核のない世界」への結束を示した意義は大きい。
ただ広島サミットの歴史的な重要性が実証されるのは、今後の現実的な取り組みにかかっている。今回のサミットが「民主主義陣営」対「専制主義陣営」の分断をあおるものになってはならない。国際社会が分断を越えた協調への足掛かりをつかむ機会としたい。
広島開催の意義は、何よりも被爆の惨状に先進国の指導者が直接触れることにあった。核兵器の悲惨さを各国首脳がどれほど理解しただろうか。
バイデン米大統領は、原爆資料館で「世界から核兵器を永久になくせる日に向けて共に進もう」と記帳した。ただ日本も含め多くの国が米国の「核の傘」に頼る、核抑止論に基づく安全保障政策に立脚している現実は否定できない。
その現状を踏まえながら、広島ビジョンからさらに踏み込み、核廃絶への行程表(ロードマップ)を示すことが岸田文雄首相の責務ではないか。
首脳声明は、独自にロシア・ウクライナ間の仲介に乗り出している中国に対し、ロシアの即時・無条件撤退を迫るように要求。一方、中国の行動に対しては「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、東・南シナ海では「力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対する」と表明した。
中国は台湾への言及などに反発しているが、声明は中国の行動に懸念を伝えると共に「中国と建設的、安定的な関係を構築する用意がある」「中国を害することを目的としておらず」とも記述した。国際秩序再構築のためには経済・軍事大国化している中国との対話は不可欠だ。
首脳声明は、気候変動やロシアの侵攻を受けたエネルギー情勢への連携や、経済安全保障、新型コロナウイルスなどの感染症、ジェンダーなどにも詳しく言及。対話型の人工知能(AI)への対処で、年内に基準を示す方針を打ち出した。
いずれも国際社会が協力しなければ取り組めない課題だ。サミットはイベントではない。首脳が合意した声明を具現化する取り組みが求められる。