認識は言葉によって編まれている。同じ世界を眺めているつもりでも、はめ込まれた言葉がほんのすこし足りなかったり、新たに交換されたりするだけで、その像は大きく様変わりしていく。

 未知の豊かな情景

 ミヤギフトシの「幾夜」(「すばる」6月号)は1941年の東京、日本軍が真珠湾を爆撃する数日前に幕が上がる。といっても、主役は軍人でも戦争でもない。むしろ、そう...