LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案が、自民党内の会合で了承された。超党派の議員連盟がまとめ、各党でも党内手続きを進めており、今国会に議員立法として提出したい考えだが、自民党内では伝統的家族観を重視する保守派を中心に反対が根強い。なお曲折も予想され、当初目指していた早期成立は不透明になっている。

 自民党特命委員会が要綱を策定。これを基に野党と協議し、法の目的と基本理念に「差別は許されない」と明記する修正に合意した。しかし自民党内で保守派が修正に反発。「行き過ぎた運動に発展する」「差別を訴える訴訟が増える」と異論が噴出し、法案了承はいったん先送りされた。

 仕切り直しの会合で了承されたとはいえ、この間、保守派からは性自認や同性カップルなどを巡って配慮を欠いた差別発言も相次ぎ、性的少数者の苦境が浮き彫りになった。欧米諸国は2000年代から性的指向などによる不利益な扱いを禁止する法整備を進めているが、日本は大きく後れを取り、性的少数者がどれくらいいるのか、公的な統計や推計すらない。

 そんな中での差別発言は看過し難い。議員連盟は「性的指向による差別」を禁じる五輪憲章の下で開かれる東京五輪・パラリンピック前の法案成立を目指していた。政府は実態把握と教育や雇用など幅広い分野にわたる法整備に正面から取り組むことが求められる。

 超党派議員連盟の法案は、法の目的に「性的指向と性自認の多様性を受け入れる精神の涵養(かんよう)と寛容な社会の実現」を掲げ、国や地方自治体の努力義務として、国民の理解を増進するための施策実施を定めている。野党は努力義務を「責務」に改めることも求めたが、自民党は譲らなかった。

 差別禁止の規定や罰則などはなく、差別解消には直結しないが、その足掛かりになろう。

 ただ「寛容な社会の実現」への道は険しい。自民党内の会合で山谷えり子元拉致問題担当相は「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、ばかげたことがいろいろ起きている」と述べた。戸籍上は男性だが、性同一性障害のため女性として生きる経済産業省の職員が庁舎で女性用トイレの利用を制限しないよう求めた訴訟が念頭にあったとみられる。

 この訴訟で国側は職員が性別適合手術を受けていないとして制限の合理性を訴えたが、19年12月の判決で東京地裁は「自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益で、制約は正当化できない」とし、制限を違法と結論付けた。

 裁判所は家族の多様化に対応しようとしているように見える。19年1月の最高裁決定は性同一性障害の人による戸籍上の性別変更で性別適合手術を要件にしているのは「現時点で合憲」と判断したが、裁判官4人のうち2人は国民の意識が変わり要件を不要とする国も増えているとし「違憲の疑いが生じている」と補足意見で指摘した。

 だが保守派は時代の変化をかたくなに拒む。法案を巡り「生物学上、種の保存に背く」と発言した議員もいる。それでも、同性カップルを婚姻に相当する関係と公認するパートナーシップ制度を導入する自治体が増えるなど変化は止まらない。それを国レベルの制度にすることも含め、やるべきことは山ほどある。