「こども未来戦略会議」であいさつする岸田首相(左から2人目)。政府は「次元の異なる少子化対策」の内容をまとめた方針を決定した=1日、首相官邸
「こども未来戦略会議」であいさつする岸田首相(左から2人目)。政府は「次元の異なる少子化対策」の内容をまとめた方針を決定した=1日、首相官邸

 政府は「次元の異なる少子化対策」の内容をまとめた「こども未来戦略方針」を決定した。

 「2030年までに少子化トレンドを反転できなければ持続的な経済成長も困難となる」として少子化対策を成長戦略の一環として位置付けた。その上で「若者・子育て世代の所得を伸ばさない限り反転できない」として若者の所得アップ重視を打ち出したのが特徴だ。

 問題意識の背景には従来政策への反省がある。家族関係社会支出の対国内総生産(GDP)比は13年度の1・13%から20年度は2・01%へ増加。だが、保育の受け皿整備など「現物給付」中心の対策は、待機児童が減少する効果はあったが、少子化に歯止めをかけるまでの成果は得られなかった。

 これを踏まえて、戦略方針は「若い世代が結婚・子育ての将来展望を描けない」ことが少子化の主因と指摘する。非正規で働く若い男性の有配偶率が正社員の半分以下であることでも分かるように、所得や雇用の不安定さが未婚化、晩婚化、その結果としての少子化を招いているとの現状認識だ。故に今後は所得アップを対策の軸にすべきだとの判断は妥当と言える。

 問題は、見極めた原因に対して、打ち出した対策がマッチしているのか否かだろう。戦略方針は、若者の所得アップのため「構造的賃上げと併せて経済的支援を充実させる」とする。「経済的支援」については、今後3年間の「加速化プラン」で児童手当拡充や高等教育費の負担軽減などを実行するとした。しかし、賃上げの方策は「安定的な経済成長の実現に先行して取り組む」と経済政策へいわば丸投げし、具体策がない。

 バブル崩壊後30年間の1人当たり賃金は横ばいで経済停滞が少子化につながったのが現実ではないか。問題は経済成長できないことなのに、成長すれば所得が上がって少子化が止まり、さらに成長できる―という堂々巡りの議論に陥っている。

 加速化プランは、年3・5兆円の追加予算で子育て世帯への手厚い経済的支援を網羅した。高校生の年代まで支給期間を延長して第3子以降は月3万円まで増額する児童手当、10万円の出産・子育て応援交付金の制度化などで、「現物給付から現金給付へ」と少子化対策の軸足を移す狙いだ。

 夫婦が理想とする子ども数を持たない理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が最多との調査結果がある。少子化対策の手本とされるスウェーデンやフランスの家族関係社会支出の対GDP比は3%前後で日本はまだ劣る。うち現金給付の割合が日本は経済協力開発機構(OECD)諸国平均を下回る。経済的支援に注力する判断には一定の根拠があるだろう。

 ただ、留意すべきは、加速化プランの経済的支援は出産・子育て世帯に入れる「カンフル注射」に過ぎないということだ。少子化の主因である未婚者が結婚、出産に前向きになるには、若い世代の所得を恒常的に高水準に引き上げる日本経済の「体質改善」が本来必要なのは言うまでもない。

 だが、成長戦略の成果が出るまで対策を待っていられないのが少子化だ。児童手当拡充などの経済的支援は、欧州で成功例があったとしても日本での成果は約束されない。だからこそ加速化プランは、実施後に検証し、改善を重ねる粘り強い取り組みが不可欠となる。